生きがいのために働く高齢者はNG

「中小企業とシニア(高齢者)」というテーマで、学習院大学名誉教授であり、人事管理の第一人者でもある今野浩一郎先生にお話をうかがいました。(2022年7月掲載の記事です)

imano

中小企業とシニア、それぞれが考えなくてはならないこと

ー働きたいシニアの方々は大勢いらっしゃるのですが、中小企業側の受け皿がまだまだ少ないというか、こういう傾向はこの先も続くのでしょうか?

うーん、実は仕事はたくさんあるのだと思います。中小企業は人が足りないからね。ただ中小企業は採用の仕方に問題があるかもしれません。「良い人が欲しい」「能力が高い人が欲しい」と曖昧なことをいう中小企業が多くないですか。シニアに期待する具体的な内容と、必要なスキルや能力をはっきり決めなくてはならないですね。

あと、シニア側の問題も大きいと思います。特に大企業で働いてきたシニアは、なかなか中小企業に合わせられないとかね。

ー合わせられないっていうのは、やっぱり文化が違うとか、そういうことでしょうか。

確かに文化も違うけど、中小の仕事の仕方に合わせて「マインドセット」を変えることが必要ですね。典型的なのは管理職でしょう。それまでは部下が沢山いて、細かい実務は部下にやらせてきているわけです。それが中小企業に入ると、何から何まで自分でやんなきゃいけないっていう……。

更に、これまでの経験で活かせる部分もありはするけど、逆に足さなくてはならないことも出てくる、例えばITスキルとかね。でも「できません」では仕事にならない、勉強しなくては始まらないですよね。

ー私もシニアの方にお仕事お願いしていますけど、確かに難しいなっていう実感を持っています。例えば60歳とか65歳とか、一度「定年」という線を越えていらしていらっしゃる方々って、そこで何かがリセットされているという感じがあるのかなと思うのですが……。

あとはのんびり働こう」とみたいなこと(笑)?

それは駄目ですよ。働く以上はちゃんと働かないと。

よく言われるけど、シニアの仕事は「生きがい」のためとかってね、私はそれ、嫌いですよ(笑) そんなこと言われたら一緒に働いている若い人がかわいそうでしょ。

ー「生きがい」というキーワードはシニアの就労にはつきものですよね(笑)でも仰る通りですね。

仕事だから、シニアも自分の何を売るのかをちゃんと考えないといけません。その代わり貢献したらちゃんとお金をもらう。シニアだから給料は安くていいでしょなんて、私だったら嫌ですよね。

ー勉強するといえば、先生が学長をつとめられている学習院桜アカデミーの講座一覧を拝見しましたが、シニアの方も受講者は多いのでしょうか?

はい、シニアの方は結構多いですよ。

ー講座の種類もずいぶんたくさんあるなとお見受けしましたけど、インターネットとかパソコンとか、やっぱり今のお仕事に無くてはならない講座もたくさんありますね、MOSとか。

仕事で必要だったら勉強する。それ以外に選択肢はありませんよ。

別にパソコンのプロになれってわけじゃない。ワード、エクセル、パワーポイントと、とにかくその辺りが使えるようになればいいでしょ、勉強しなさいよってことです。

ー仰る通りだと思います。

定年とかセカンドキャリアとかいうけれど、日本社会がサラリーマン社会になったのはここ数十年の話ですよね、それまでは自営業が多かったわけです。高度成長期に日本が世界に冠たるサラリーマン社会というか、ビジネスパーソン社会になり、定年したら引退などという社会になったわけです。
でも、本来は年齢に関係なく働ければよいわけで、60とか65で引退とかではなく、企業内でも自営業のように年齢にかかわりなく働ければよいですよね。

ーそうですね、確かに。

年齢が高くなって体力が落ちたら、それに合わせて事業を縮小するなど、農家の方や自営業の方たちはそうしていますよね。ビジネスパーソンも高齢期になっても出世し続けることは不可能だし、体力がおちてきたら仕事量を減らすことも身を引くことも自分で判断していかないとね。

多くの企業では定年して再雇用したシニアに「給与は大幅に下がるけど置いてあげる」的な人事管理をとっていますが、これではシニアは「お荷物」的な感じですよね。私はこれを「福祉的雇用」と呼んでいますが、それでもこれまではシニアの絶対数が少なかったからあまり問題にならなかった。でもこれからは違う、どんどん増えてきますからね。「お荷物」だらけでは会社潰れてしまいますよ。

それに「お荷物」であると職場の若い人に悪い影響を与えるので、職場全体のパフォーマンスが落ちますよ。だから、重要なのは「お荷物」にしないで、シニアにもきっちり働いてもらうということ。

大手企業のなかでも、シニアの仕事を社内公募で決めている会社があります。社内公募で「こういう仕事があって、こんな人材を探しています」っていう掲示するわけですよ。シニアはそれに応募するというわけです。

やっぱりシニア側も「業務上必要な、こういう仕事をやってほしい」って言ってもらいたいですよね。

ーはたらきたいシニアに必要なことは……

やはり専門能力が有ったほうがいいですが、専門能力はあるけど「プラットフォーム能力」がないという人は辛いですね。「プラットフォーム能力」って何かっていうと、先ほど言った「気持ちを切り替えることができる能力」と、あとね「ヒューマンタッチ力」「一人で仕事をやりきる力」なんですよ。つまり若い人と目線をちゃんと合わせて人間関係を作れたり、ちゃんと一兵卒として独立して仕事ができる能力。

ー組織内で働くなら必要な力ですね。

「プラットフォーム能力」があるシニアを言い換えると「かわいい高齢者」といえるかな。

定年後、うまくいっている人とうまくいってない人がいます。以前人事の皆とシニアの人事管理はどうあるべきかについて議論しましたけど、全然答えが出なかった。で、社内でうまくいっているシニアを順に挙げてもらったんです。

そうしたら、メンバーの一人が「このシニア、みんなかわいいですよね」って言うんですよ。なるほど、そうかもしれないということで、もう一度深く分析してみたら、総じて「プラットフォーム能力が高い」というようなことになったのです。

ーなるほど、面白いですね。

「プラットフォーム能力」、つまり「気持ちを切り替える力」と「ヒューマンタッチ力」更に一人で仕事を完遂することができる「おひとり様しごと力」があって、その上に専門能力があれば、活躍できるシニアということになりますね。

ーそういうシニアの方なら企業側のニーズも高いでしょうね。

定年後はなんでもかんでも給料4割減などと一律に下げることは止めたほうがいいですね。シニアになっても「何の仕事を担当するか」で給料を決めるべきです。定年前とほぼ同じ仕事であれば、待遇面など条件もそれほど変わらないようにしないと。そうする企業は増えてきていますが。

勿論、管理職だった場合は責任が減ったり、勤務地の異動が無くなる、長期出張が無くなるなどの変化に応じて賃金が下がるというのはありますがね。

ーなるほど、負担が軽くなった分は少し給与下がるけど、やることは変わっていないのに一気にガクンと落ちるのは嫌ですよね。企業側としても仕事の質が担保されるなら支払いはしますって会社も、きっと一定数以上ありますよね。

シニアになっても戦力として頑張ってもらわないといけないからね。

これからはシニアの戦力化をどんどん進めないといけませんし、シニアパワーを頼みの綱にする会社は山ほど出てくると思いますよ。

今野浩一郎 先生
学習院大学名誉教授/学習院さくらアカデミー長
神奈川大学工学部助手、東京学芸大学教育学部助教授などを経て、1992年より学習院大学経済学部教授。企業の人的資源管理からマクロの雇用問題まで人財に関わる分野を幅広く研究。
「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」「長時間労働対策事業検討委員会」座長など数多くの公職を歴任。著書に『高齢社員の人事管理』(中央経済社)など。 学長をつとめる「学習院さくらアカデミー」は、日本の古き良き伝統を継承する雅楽や礼法などの講座をはじめ、教養、語学、趣味、さらには実社会で役に立つ資格や実務講座など、多種多様な講座を開講している。

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