脳寿命を延ばすコツ 第3回

睡眠不足と認知症の関係

脳寿命TOP

第3回は、脳の老化予防において睡眠が果たす重要な役割について解説します。

これまでの研究によって、ヒトの理想的な睡眠時間は一日平均7時間程度と言われています。みなさんの睡眠時間はいかがでしょうか? 「睡眠は十分足りている」と感じていますか?

目次

脳の健康維持に重要な睡眠

実は厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、日本人の約4割程度が「睡眠時間6時間未満」と回答しており、睡眠が不足していることがわかっています※1。これは脳の健康維持においても大きな問題です。なぜなら、近年の研究で、睡眠不足と認知症の発症には関連があることが報告されているからです。

2812人の高齢者を対象にしたアメリカの研究では、睡眠時間が5時間未満の人は、7~8時間の人に比べて、認知症の発症リスクが2倍高いことがわかりました※2。

約8000人を対象に、25年間の追跡調査を行ったイギリスの研究でも、50歳代に睡眠時間が6時間未満だった人たちは、7時間の人に比べて、約30年後(70歳時点)で認知症の診断を受ける割合が約30%高いと報告されています※3。現在の睡眠習慣は、将来的な脳の老化に影響を及ぼすのです。

睡眠不足がなぜ認知機能を低下させるのか、そのメカニズムの解明に切り込んだ研究もあります。

認知症の中でもよくみられる「アルツハイマー型認知症」は、脳に異常なタンパク質であるアミロイドβやタウタンパク質が蓄積し、徐々に脳細胞が壊れることで発症すると考えられている病気です。近年、深い睡眠は、このアミロイドβなどの有害なタンパク質を脳から除去する働きを持つことがわかってきました※4、5。つまり、睡眠不足が続くと、いわゆる脳の掃除ができず、認知症のリスクを高める恐れがあるのです。

体内時計をリセットする工夫

では、理想的な睡眠習慣を身につけ、脳の老化を予防するためにはどうすればよいのでしょうか。

ぜひ取り組みたいのが、毎日の起床時間、就寝時間を記録する「睡眠日誌」をつけて、問題をみつけることです。途中で目が覚めてしまった時や、昼間に眠気を感じた時間、昼寝をした時間も記録します。入眠時に寝つきが悪かったり、未明に目が覚めてしまう、日中の眠気が辛いなどのトラブルがみつかった場合は、「体内時計」のリズムを整える工夫をしましょう。

太古の人類は、日の出とともに活動し、日没とともに休息するなど、自然の太陽の光を浴びることで体内リズムが整う生活をしていました。しかし照明やテレビ、スマートフォンに囲まれた現代社会では、人工的な光によって体内時計が狂いがちです。昼夜にメリハリのある生活を習慣づけ、狂ってしまった体内時計をリセットしましょう。午前中は意識的に日光を浴びて、脳に光の刺激を与えます。逆に夜は照明を暗めにする、寝る前はスマートフォンを見ないようにするなど、光による刺激を避けましょう。こうすることで、脳を深い眠りに誘うメラトニンというホルモンの分泌が促され、質の高い睡眠を得ることができます※6。

脳の老化を予防し、心身の健康を保つためにも、良い睡眠習慣を身につけましょう。

※1:厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査

※2:Aging (Albany NY). 2021 Feb 11;13(3):3254-3268.

※3:Nat Commun. 2021 Apr 20;12(1):2289.

※4:Lancet Neurol. 2018 Nov;17(11):1016-1024.

※5:Science. 2013 Oct 18;342(6156):373-7.

※6:Chronobiol Int. 2016;33(1):134-9.

+シニアのトップへ

サイトのトップへ

よかったらシェアして下さい。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次