介護の壁 第5回 ケアマネジャー
介護に関わる職業には、ケアマネジャーや介護福祉士、生活相談員、社会福祉士などさまざまな職種があります。「ケアマネ」や「ヘルパー」など、一度はどこかで耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、介護に関わる職業の中でも特に有名な「ケアマネジャー」と「介護福祉士」について詳しく解説します。
ケアマネジャーとは、介護保険制度に基づき要介護者や要支援者のケアマネジメントを行う専門職です。正式名称は「介護支援専門員」ですが、通称「ケアマネ」とも呼ばれています。介護を必要としている人の抱えている課題や状態に即した利用者本位の介護サービスが適切に提供されるよう調整を行う専門職であるため、要介護認定を受けた人にとってケアマネジャーは介護保険サービスを利用するにあたって欠かすことのできない存在と言えるでしょう。
ケアマネジャーが行うケアマネジメントは、介護が必要な本人や家族が抱えている課題や問題を分析し、必要な支援を組み立てながら課題の解決を目指すことから、高い専門性が求められます。そのため、ケアマネジャーの資格を取得するためには介護・医療・福祉分野の資格を持っていることに加えて、5年以上の実務経験が必須です。資格の有効期間も5年と定められているため、ケアマネジャーの資格取得後も5年ごとに更新時の研修が義務付けられています。
ケアマネジャーの業務内容
ケアマネジャーが行う業務は、大きく分けて以下の5つに分類されます。
①ケアプラン(介護サービス計画書)の作成と管理
ケアプランの作成は、数あるケアマネジャーの業務の中でもメインとなる仕事と言っても過言はありません。ケアプランとは介護保険サービスを受ける際に必要な計画書のことで、介護を必要とする本人や家族からの相談を受けた後、本人や家族が抱えている課題を分析し、本人の希望を組み込みつつ解決に向けて適切なサービスや支援を受けることができるように作成します。ケアプランはケアマネジャーにしか作成することができないため、特に重要な業務と言えるでしょう。また、ケアプラン作成後も定期的に利用者のところへ訪問し。状況を確認しつつ必要に応じてケアプランの見直しも行います。
②介護サービスに関する情報提供
利用者や家族の希望に合う介護サービスの情報を提供することも、ケアマネジャーの業務の1つとして挙げられます。基本的に居宅ケアマネジャーの業務は居宅サービスの利用支援や情報提供が中心ですが、利用者が施設への入所を考えている場合には希望に合った施設に関する情報提供や、入所が決定した場合のサポートを行うこともあります。
③関係機関との連絡調整
自治体やサービスを提供する介護事業所などの関係機関と利用者の間に入って、連絡調整を行うことも大切な業務の1つです。サービスを利用するにあたって介護事業所にサービスの提供の依頼を行ったり、利用者が利用するサービスの関係者を集めて担当者会議を開催してケアプランの進捗確認も行ったりします。また、利用者が入院した場合は医療機関とも連携し、退院後に必要となる介護サービスの調整を行い、入院前と同じような生活レベルを維持できるように支援を行うこともあります。
④給付管理業務
介護保険サービスの利用料は、国の制度によって利用者が原則1割(利用者の所得によっては2〜3割)、国民保健団体連合会が9割(利用者の所得によっては7〜8割)の割合で負担することになります。給付管理業務とは、利用者が負担する金額を除いた金額を国民保健団体連合会に請求するために行う業務のことで、毎月利用者が利用したサービスの実績を確認し、給付に必要な書類の作成などの事務手続きを行います。
⑤要介護認定の申請代行や訪問調査
介護保険サービスを利用するには、住所地のある自治体の窓口で申請を行い、要介護認定を受ける必要があります。基本的に本人や家族が申請手続きを行わなければいけませんが、本人の状況や家族の事情で申請が難しい場合はケアマネジャーが申請代行を行うこともできます。また、自治体から要介護認定調査を委託された場合は、利用者宅に訪問して心身の状態を確認する聞き取り調査(訪問調査)を行うこともあります。
ケアマネジャーとの関わり方のポイント
ケアマネジャーは、介護保険サービスを利用する人や家族の一番近くに寄り添って支えてくれる専門職です。しかし、初めて介護保険サービスを利用するという方の中には、どのように関わっていけば良いのか、どの程度お願いして良いのか分からないという方もおおいのではないでしょうか。ここでは、ケアマネジャーとの関わり方のポイントについて説明します。
①分からないことは質問する
何か分からないことがある場合は、遠慮せずにどんどんケアマネジャーに質問しましょう。疑問点を質問しないと、ケアマネジャーも相手が理解しているものと解釈し、話を進めてしまいます。少しでも不安に感じることや分からないことがある場合は、すぐにその場で確認し解決しておくと、双方ともに安心して話し合いをすることができます。
②連絡をこまめにとる
緊急時だけでなく、普段から利用者本人や家族からこまめに連絡を取るようにすることも、ケアマネジャーとうまく関わるためには大切です。生活で不便に感じていることや利用しているサービスで困ったことがある場合は、すぐにケアマネジャーに伝えるようにしましょう。具体的に希望を伝えることで、より希望に沿った介護サービズを受けることができるようになります。また、遠方に住んでいる家族の場合、頻繁にケアマネジャーと会うことは難しいため、電話で連絡を密に取ることで離れていても本人の状況を把握できるようになるためおすすめです。
③利用者の情報をしっかり伝える
ケアマネジャーに利用者の情報を伝えることで、利用者に合ったケアプランを作成してもらいやすくなります。利用者の生い立ちや好み、苦手なもの、家族のこと、趣味や仕事のこと、健康面や生活面で不安に感じることなど、利用者に関するあらゆる情報をケアマネジャーに提供するようにしましょう。特に年金額や家族の経済状況などは話しにくいかもしれませんが、ケアプラン作成には費用面も大きく影響するためしっかりと話しておくことをおすすめします。
介護福祉士とは
介護福祉士とは「社会福祉士及び介護福祉士法」に定められている国家資格で、介護を必要とする人に対して食事や入浴、排泄などの日常生活を送る上で必要な動作の支援に関する高度な専門知識と技術を取得している介護の専門職です。介護福祉士の職場は多岐にわたり、主に特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの入所施設や、デイサービスなどの通所サービス、訪問介護事業所、医療機関など、さまざまな場所で活躍しています。
そんな介護のスペシャリストとして介護職の中核を担うことが期待されている介護福祉士ですが、現在日本では介護業界全体で深刻な人手不足が問題となっています。厚生労働省の調査によると、介護福祉士の資格を取得しても実際に介護職として従事(障害分野等他の福祉分野に従事している者を除く)している人は、約半数程度に止まるという結果が出ているなど、介護離れが進んでいることがうかがえます。
団塊の世代が75歳を迎える2025年に向けて、現場で働く介護福祉士を増やすことを目的に、問題となっていた労働環境を整えたり、キャリアアップ制度導入して介護職の処遇改善が行われたりと、さまざまな取り組みが行われています。介護福祉士の資格取得支援制度を導入している施設や事業所もあるため、介護福祉士は現在最も注目されている資格とも言えるでしょう。
介護福祉士の業務内容
介護福祉士が行う業務は、大きく分けて以下の5つに分類されます。
①身体援助
介護を必要とする人の身体に直接触れて行う介護サービス全般のことを、身体援助と言います。食事や入浴の介助、排泄介助、体位変換、移動介助、服薬介助など、日常生活を営む上で必要な支援を利用者の心身の状態に応じて適切に提供しています。身体介助では、一方的に介助するのではなく、できるだけ利用者が自分で行うことができるように声掛けをして見守るなどのサポートすること行っています。自立に向けて今ある力を生かした支援を行うことも、介護福祉士の大切な仕事です。
②生活援助
生活援助とは、食事の支度や洗濯、買い物、掃除など、日常生活を送る上で必要な家事を代行する介護サービスのことです。利用者1人1人の状況に合わせて作成されたケアプランに沿ってサービスを提供します。生活援助は利用者に対して行うものであるため、本人に関係のないペットの世話や草むしりといった家事は生活援助に含まれないため、提供することはできないので注意しましょう。
③社会活動支援
就労支援や地域活動の情報提供など、社会参加のための支援を行うことも、介護福祉士の大切な業務の1つです。外出頻度が減るなど行動範囲が狭くなってしまうと、老化が進行したり、認知症が急激に進行したりする恐れがあります。そのため、介護が必要な状態であっても利用者が孤立することがないよう、近隣住民などの周囲の人との交流を促して良い人間関係を築けるようにサポートを行います。
④相談・助言
利用者が安心して自立した生活が送れるように、本人や家族から介護に関する相談を受け、具体的な助言をする業務も行っています。また、介護福祉士が利用者と家族の間の橋渡し役や、関係機関への窓口としての役割を担うこともあります。
⑤チームマネジメント
介護現場で唯一の国家資格である介護福祉士には、介護職のチームリーダーとして現場をまとめることが期待されています。特に経験豊富な介護福祉士の場合、現場メンバーのマネジメントやチームケアの役割を担うことがあり、介護スタッフの指導や育成、業務管理、管理職との橋渡しなど、さまざまな業務を担当することもあります。
まとめ
介護業界も他の業界同様に、様々な仕事が分担されて成り立っています。在宅介護を含め、対象者が増加する一途に対して、従事する人が思うよう増加していないのが現状です。その現状を踏まえながら、いろいろなアドバイスを得られる関係性を作っていくことも介護においては重要です。
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