病院経営から家族のために田舎に移住

ーすみれさんは実際にどんな作物を作っていらっしゃるのですか?

実は自宅の隣の30坪程の畑は貸して頂けたのですが、畑仕事についてはもともと家庭菜園程度の知識しかない私でした。ですから引っ越した当初は、何を作るかよりまず畑の土壌作りから始めなければなりませんでした。

土壌作りは、お隣のおじい様が基本から教えて下さいました。工具もお借りして。だんだんと作物の種類も増えて、今では、そら豆・スナップエンドウ・きぬさや・玉葱・じゃがいも・にんにく・白菜・大根・かぶ・いちご等作っています。形は良くないものもありますが、野菜のもつ香りや味は格別です。相性の良い野菜を一緒に植えるとお互いを守ってくれることとか、野菜から種を取る方法とか、本から学ぶことも多かったんですが、近所の方が沢山教えて下さったんです。

とにかく、食べて体に良い野菜を作ることに気を遣ってきました。農薬や化学肥料は使いたくないので、肥料は野菜くずをコンポストに入れ、さらに糠や野菜や落ち葉を混ぜて作っています。虫や微生物も肥料作りを助けてくれるんです。

ー畑暮らしを始めてみて、感じたことはありますか?

畑仕事の大変さです。まず気候に左右されることですね。丹精込めて作っても、台風が来たり大風が吹いたら野菜は一瞬でダメになってしまう。自然の力の大きさをあらためて感じました。

ここに来る前に買っていたスーパーに並んだきれいに形の揃った野菜たち、どうやってあんなに沢山きれいに作れるのか? とあらためてすごいと思います。同時に農業に従事している方たちの苦労を考えると、野菜は安すぎると痛切に感じるようになりました。野菜が実ることは大変うれしいですが、農業の苦労を知ったこともよかったことです。

ーいすみ市に転地し、畑暮らしをするようになってご自分自身に変化はありますか?

心を開くようになりました。都会に住んでいた時は、私の中に「こんな風でありたい、こんな人でいたい」という理想像があり、いつもそれを追いかけていました。でも今は「私は私のままでいいんだ」と思えるようになったんです。だから毎日楽に過ごせます。

ー今一番幸せに感じるのはどんな時ですか?

こちらで友達になった方たちとおしゃべりをする時ですね。

マルシェといってそれぞれの家でできた野菜やジャムやお惣菜を持ち寄り、いすみ市独自の通貨=米(マイ)でゆずりあっているのですが、その仲間や近所の友達と作物のことや日々の出来事をおしゃべりするのがとても楽しいです。移住者も多いので、今では自分が行ったこともない遠くの街の出来事も自分の故郷のように感じます。

それから毎日夕方に約一時間の散歩をしています。これも欠かせないし、欠かしたくない特別な楽しい時間です。自然の移り変わりや可愛い鳥の様子をながめたり、そのさえずりを聴きながら山と畑に囲まれた道を歩くんです。あー幸せだなあーーと感じる瞬間です。

共同のマルシェに出す「採れたて苺の大福」と「採れたて野菜を使ったお惣菜」

ーこれからの夢はなんですか?

健康に気を配る子育て世代の人や一人暮らしのお年寄りに、食べて頂けるだけの美味しくて体に良い野菜を作りたいです。なぜなら体は食べた物でできているのだから。家族だけでなく、皆が健康でいられるお手伝いをしたいと思っています。

ー自分で畑仕事を始める前と始めてからで農業のイメージはかわりましたか?

農業というのは、沢山の知識や経験が必要なんだけど、それだけでなく、自然と協力しながら作物を作ることなんですね。

大きく実りはじめた大豆なのに、大風が吹いて根元から茎が折れてしまったことがありました。そして天候などに左右されるだけでなく、日ごろから畑の雑草をむしったり、野菜に付いた虫をひとつひとつ取り除いたり、収穫後には野菜を「洗う」作業の大変さなど・・畑仕事を始めてから農業が如何に大変かがよくわかりました。

お店に当たり前の様に並んでいる形の揃ったきれいな野菜たち、そこには日々の農家の方のご苦労がたくさん詰まっているんですよね。

それから以前は農薬を使うことには否定的だった私ですが、作物作りの大変さを知ってから、その考えは薄れました。沢山作る上でやむを得ないことなのかも、と思うようになりました。でも私は、農薬を使わずに作物作りを続けていきたいです。

1 2 3
よかったらシェアして下さい。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次