人生100年時代は多毛作人生

柏市の実証実験の様子について、お聞かせください。

東京大学高齢社会総合研究機構では、柏市をフィールドにして、“人生100年時代のまちづくり”をテーマに実証実験をおこなっています。その中で、私は「セカンドライフの就労」を担当しています。

柏市は典型的なベッドタウンで、都心の職場に朝早く出かけて夜遅く帰ってくるような人たちが住んでいる地域です。40年間働き続けてリタイアした人たちが、1日中家にいてテレビを見ているような状態でした。柏市にはボランティアや生涯学習などの機会がいろいろあるのですが、リタイアしたシニアたちは、いろいろなスキルや経験をもっていても、なかなか出ていかないのです。シニアたちにヒアリングをしてみると、「何かやりたい」「働く場があるのなら出ていきたい」と思っていることがわかりました。でも、一方で、「満員電車で通うことはしたくない」「体力的にきつい」「地元に仕事があるといい」とも思っていました。

そこで、自転車で行ける位の範囲に、小さな仕事をなるべくたくさん作ろうと考えました。具体的には、柏市には休耕地が多かったので“農業”、共働き世帯が多かったので“学童保育”、それ以外に、“介護”、“食回り”などの仕事です。元商社マンが学童保育で、“英語対話”塾をやったら好評だったという例もあります。

農業や教育は人気がありますが、介護施設でも50人位働いています。介護施設では、朝と夕食の忙しい2時間だけ働くということもできるのです。中には、こういった小さな仕事を3つやっているシニアもいます。

このように、リタイアしたシニアたちが、今までと全く違うことに取り組んでいます。

【秋山教授作成資料より】

ーシニアにとってリタイア後に新たな仕事に取り組むのは難しそうですが、秋山先生はシニアの方々にどのようなお話をされるのですか。

柏市ではシニア向けに就労セミナーを7回くらい実施しました。

「リタイア後は今や余生ではない。健康で過ごせる長い時間がある。」ということを伝え、「これまでのキャリアを完全リセットして人生二毛作でいきましょう。」と話します。

30代に比べて、65才は“健康”では劣りますが、“自由な時間”、そこまで無理して働かなくてもいいという“経済的ゆとり”、“知識・経験”、“ネットワークの広がり”などの面で優位です。セカンドライフをどうデザインするかは自由度が高いのです。「人生でこんないい時期はない。仕事に限らず、何でもいいから、新しいことをやってみようよ。合わなかったら、方向転換すればいいだけ。」といった話もします。

シニアばかりでなく、それ以下の年代にとっても、時代の変化は大きい気がします。

今の30代、40代は80代まで働くのが普通になると思います。会社の定年が伸びるということではなく、シニアになったら無理のない範囲で働ければいいのです。そういう働き方をどうのように作っていくかということが課題です。

コロナには負の面は多々ありましたが、働き方が大きく変わったというのは、ポジティブな変化です。働き方が従来のメンバーシップ型からジョブ型に変わってきていて、会社にすべてを捧げるような働き方は減ってきています。ジョブ型が進むと、シニアも多様な働き方ができるようになりますし、皆が無理のない範囲で働けるようになると期待しています。

また、テクノロジーの進化が様々な問題を解決してくれるでしょう。シニアや女性にはできないと言われた仕事、例えば、重労働はロボットが助けてくれるようになります。そうなると、シニアだけではなく、障害者を含め、全員で社会を支える構造になります。

人生100年の時代の働き方は、どのようになっていくとお考えですか。

若い人たちの働き方は、すごく変わってきていて、柔軟な働き方になってきています。テレワークはなくならないでしょうし、副業を認めない会社は選ばないという学生もいます。大きな企業に就職しても、定年まで勤めようという考え方は少なくなってきています。仕事も結婚も、自由に人生を設計する時代になってきているのだと思います。

これからは、大学を出たら仕事一筋という時代ではなく、「ワークとライフとラーン(学び)」の3つが重なり合って、出入り自由の時代になっていくと思います。それを可能にする社会の仕組みが求められているのです。

例えば、子どもが幼い時期にはライフを重視すればいいのです。こういう社会なら、シニアも80代まで働けます。移行期には、いろいろ問題が出てきますが、世界の潮流はそちらに向かっています。

【秋山教授作成資料より】

平均寿命を延ばすことは人類の夢でした。その次に、健康寿命の延伸が課題になりました。私は、これからは“貢献寿命”の延伸が課題だと考えています。貢献寿命とは、社会とつながっていること、役割をもっていきること、例えば、小さなことでも「ありがとう。」と言われることです。そこに日本はチャレンジし、世界に発信していくべきだと思います。

ー最後に、秋山先生ご自身のセカンドライフについてお聞かせください。先生が農業を始められたという記事を見かけました・・・

人には「人生二毛作」と言っているのに、私はずっと研究一筋で、少し後ろめたい気がしていました。(笑)

埼玉県日高市の休耕地を借りて、(株)サミーズファームを立ち上げ、男性の友人3人と農業を始めました。5年間休耕していた農地を開墾して、インターネットで調べながら自然農法で枝豆から始めました。初年度はカラスや鹿、雑草の被害でさんざんだったのですが、マルシェでは枝豆が好評でした。

私たちは、「CSA(地域支援型農業)」を目標にしていて、ビジネス化する夢をもっています。CSAというのは、消費者が年会費を払って定期的に農産物を購入し、農家側の経営リスクをシェアする仕組みです。こういう仕組みがあれば、若い人が農業に参入しやすくなります。

定期購入になると、量だけではなく、いろいろな種類の野菜を供給が必要になってきます。今、私たちは需要に合う供給ができる体制を作っているところで、道半ばです。

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