「脳の老化予防に役立つ食事」
ヒトの脳は、1000億個ともいわれる神経細胞が互いにネットワークを作り、全身の司令塔として働いています。わたしたちは大きな脳をもっているおかげで、仕事や人間関係、愛情や創造活動、計算や予測など、知的な活動を行うことができるのです。
しかし、生きている以上、加齢による脳や身体の変化を完全に避けて通ることはできません。
個人差はあるものの、ヒトの脳の重量は、20歳頃に約1300~1450gのピークに達しますが、50歳代以降に徐々に細胞数や重量が減ってきて、90歳になる頃にはピーク時から10%ほどに減少すると言われています。※1
現代の医学では、脳の老化を完全に回避することはできませんが、日々の工夫を続けることで、脳の老化を予防し、若々しく保つことはできます。脳の老化予防において、重要なポイントは脳にしっかりと「栄養・休息・刺激」を与えることです。
今回はまずシニアの脳の老化予防に役立つ「食事」についてご紹介します。
食事は健康維持に欠かせない活動であり、脳のアンチエイジングにも大きな影響力をもっています。世界保健機関(WHO)による「認知機能の低下および認知症リスク低減」のためのガイドラインでも、食事の改善が認知症リスクを低減する可能性が示されています。※2
シニア世代の食事で気を付けたいポイントは、「糖質を摂り過ぎないこと」と「食物繊維・タンパク質・脂質をしっかりと摂ること」です。※3 実際に、これまでの研究で、白米やパンなどの炭水化物を主とする高カロリー食は認知症リスクを高めることが報告されています。これは、炭水化物に含まれる糖質を大量に摂取すると、血糖値が急上昇し、脳を含める全身の血管に大きなダメージを与えるためです。さらに糖質の摂り過ぎは、AGEs(終末糖化産物)とよばれる老化を促進させる物質を生み出し、認知症だけでなく、シワや動脈硬化、白内障など様々な老化の原因になることがわかっています。シニア世代に差し掛かったら、特に糖質の摂り過ぎには注意したほうがよいでしょう。
逆に積極的に摂取したほうが良いのは、良質なタンパク質と脂質です。※4
中高年を対象にした国立長寿医療研究センターの調査では、特に動物性タンパク質をしっかりとっている人のほうが、タンパク質が不足している人よりも認知機能の低下リスクが少ないことが報告されています。 脳の老化予防には、魚やナッツ類に多く含まれるオメガ3(n-3)系脂肪酸を毎日摂取すると効果的です。※5
とはいえ、無理をして食生活を変えることでストレスを溜めてしまっては逆効果です。楽しい食事は、それ自体が脳に良い刺激になります。人生100年時代、無理をせずに健康的な食生活を続けられるよう、「魚を中心とした主菜・副菜を増やす」「糖質を少し減らしてみる」など、できることから取り組んでいきましょう。次回は、脳のアンチエイジングに役立つ「食べ方」のコツや、その他の栄養素について解説します。
<参考文献>
※1:Dokkyo Journal of Medical Sciences 35(3):203‐208,2008⤴︎
※2:世界保健機関(WHO)「認知機能の低下および認知症リスク低減」のためのガイドライン日本語版⤴︎
※3:厚生労働省、食事摂取基準策定検討会資料「認知症と栄養」⤴︎
※4:Japanese Society of Nutrition and Food Science. 20:99-104. 2014 ⤴︎
※5:オレオサイエンス/22 巻7 号:327-335, 2022