終身雇用制度は長らく、安定した労働力を確保できる企業と経済的な安定を得られる労働者相互の利益から誕生した制度でした。しかし、この制度が誕生したのは、現在の少子超高齢社会や日本経済の長期停滞などを全く予測できなかった70年以上も前のこと。
グローバル化、テクノロジーの進化、デジタル社会への移行など、現代社会では企業の競争環境が大きく変化。それらによって、雇用の安定性が保障されることが難しくなりました。さらには、人生100年時代、働けるうちは働くという流れも。
年功序列や終身雇用が崩壊した現在において、セカンドキャリアは大きなテーマとなりました。今回は、終身雇用制度が当たり前の時代を歩んできた60歳前後の男性3人にお集まりいただき座談会を開催。キャリアコンサルタントの垂水菊美先生ににアドバイスをもらいました。
目次
シニアは“やりたいこと”を人生の真ん中に
定年を迎えるタイミングは、新たな人生を考える絶好の機会です。
以下では、実際の事例をもとに、シニア世代がセカンドキャリアや新たな挑戦に踏み出すためのヒントを垂水先生のアドバイスとともにご紹介します。
ケース1:定年を機にやりたいことリストを実行したいAさん(59歳)
金融関係の企業で長年活躍され、支店長も経験したAさん。単身赴任を乗り越えながらも、仕事一筋の人生を送ってこられました。しかし、実父の介護や死別を経験し、初めてセカンドキャリアを真剣に考えたそうです。「長期休暇を一度も取らなかったこと」を後悔しないため、定年を機に“やりたいことリスト”を実行する決意を固めています。
垂水先生のアドバイス:やりたいことを優先させて
仕事には次の3種類があります。
- ライスワーク(生活のための仕事)
- ライクワーク(好きな仕事)
- ライフワーク(使命と思える仕事)
これからは「好きではないこと」に時間を割くのはもったいないかもしれません。生活費を見極め、必要最低限のライスワークに抑えながら、好きなことを優先する人生も良いでしょう。パートナーとの合意を得ることも重要です。
ケース2:故郷の町おこしに関わりたいBさん(55歳)
マスコミ業界で働くBさんは、60歳を目処に新たな挑戦をしたいと考えています。しかし、現時点ではお子さんがまだ成人していないため、関連会社で働き続ける予定です。一方で、故郷の町おこしに関わりたいという思いを抱えつつ、「本当にやりたいこと」がわからなくなっているのが悩みです。
垂水先生のアドバイス:柔軟な姿勢で動き出すことが大切
長年、会社で大きなタスクをこなす生活を送ってきたため、最初から完成形を目指しがちです。しかし、これからは「とりあえずやってみる」という柔軟さが大切です。動きながら取捨選択を行うことで、新たな縁や気づきが得られるでしょう。
ケース3:好きなことを仕事にしたいCさん(61歳)
印刷大手企業の関連会社で企画職に就いているCさん。現在の仕事にやりがいを感じており、70歳まで働きたいと考えていますが、雇用は65歳まで。コロナ禍で30年ぶりにオリジナル漫画を描く意欲が湧き、セカンドキャリアを模索中です。
垂水先生のアドバイス:好きなことを人に投げかけてみる
好きなことを完結させず、人に共有することで新たな気づきが得られます。他者からの反応を受け、自分の楽しさを再確認したり、改善点を見つけたりすることができます。それが新たな仕事や活動に繋がる可能性もあります。
垂水先生から再就職に向けた全般的なアドバイス
40歳の時に一度立ち止まるべし
「2倍成人式」を設け、40歳という折り返し地点で次の20年を考える機会を作るのは有意義です。
自分自身と向き合い、これまでのキャリアや今後の目標を整理してみましょう。
ネットワークの力を活用するべし
新たな挑戦をする際には仲間とのネットワークが重要です。
プロジェクト的な関係で目的を共有しながら進めることで、息苦しさを感じずに取り組むことができます。
働き方の変化に対応するべし
日本でもジョブ型や成果型の働き方が普及し、高齢者の再就職市場も変化しています。
柔軟な思考を持ち、時代の流れに合わせた動きが求められます。
垂水菊美先生のプロフィール
株式会社キャリアンサンブル 代表取締役
一般社団法人あしたの働き方研究所 理事 企業や大学で講師兼キャリアカウンセラーとして活動中。累計30社以上、毎年300名以上のキャリアカウンセリングに関わる。企業では自律型キャリア形成、ダイバーシティ&インクルージョンの組織開発・人材開発コンサルタントとして携わる。セカンドキャリア支援を専門家集団でのプロジェクトワークとして展開中。