東京の中野に真っ当な眼鏡屋さんがあると聞いて、お訪ねしてみました。シニアの場合、メガネをどう使うか迷うことがあるのではと思うからです。駅からまっすぐの商店街のすぐにその店はありました。

マリコ眼鏡店 鞠子潔さん(59歳)
東京都中野区5‐64‐8 JR中央線 中野駅 北口から徒歩1分
サンモール商店街内(ユニクロ隣)
眼鏡専門店 マリコ眼鏡店|東京 中野 (mariko-megane.com)
目次
3代、90年続けてきた眼鏡屋
こんにちは。よろしくお願いいたします。隣がユニクロさんなのですね。この中野サンモール商店街もずいぶん変わったのでは?
そうですね、この10年、20年で、どうでしょう。90%は店が代わったのではないでしょうか。
もちろんオーナーさんは残っているのですが、貸されていますね。この商店街は人通りも多いので、新たに入られるところも魅力的なのでしょう。ほかから比べれば恵まれていると言えます。
この間も100年続いた時計屋さんが閉められました。職人の方がご高齢で辞められたそうで。個人店がチェーン店に変わっていって、街の個性が小さくなりました。まあ、つまらないと言えば、そうですが。先日も知り合いの同業者がやめられ、貴重な検眼用レンズセットを何箱かいただきました。寂しいですね。
でも、こちらはそんななか3代、90年続けていらっしゃるんですね
はい、昭和7年の開店ですから90年ほどになりますね。周りに助けられてここまで来ています。
初代は金枠職人で、まじめな人でした。まあ、職人肌というのですかね。そこをお客様が気に入られて、当時近くの教会の神父さんが眼鏡を作っていただき、ずっと修理して使っていらっしゃったそうです。そのご縁で、いまもシスターさんが来られています。
うちは、浮き沈みはそれほどありません。バブルの時も高価なものをたくさん売ったりもしていないですしね。宝石の付いたものですとか、他店では多く売られていたそうですが、うちはいい意味で注文のうるさい方相手に丁寧に作っていただけです。それが結果、こうして続けていられるのですかね。
眼鏡は、機能とファッション、どちらも大切です。ともかく品ぞろえは多くして、お客様に満足していただくようにと考えています。
レンズにしても、他店では使わないガラスレンズも多く扱っています。ですから、変わったレンズをご注文される方がうちに来られます。なるべくご要望に応えられるようにはしています。わざわざ、他県から来られる方もいらっしゃるくらいです。
そういえば、タレントの伊集院光さんもよく来られるとか
何週間か前にも来られました。店のことをテレビやラジオで言っていただける。
伊集院さんに合う大きめの眼鏡が、なかなか他店では見つからないそうです。うちは、まあそういうものも揃えていますので。
番組の中で店名を挙げていただいています。“ほかにはないのでつぶれては困るから、店名を挙げて応援します”と。助かります。それでお客様が見えられますから。また、その眼鏡に合うケースがなくて、大きい妖怪ウオッチの絵柄の物を差し上げたら喜んでいただけました。
そういえば、品ぞろえが多いですね
はい、どちらかというと個性的なものを集めるようにしています。まあ、いい意味のニッチ、格安メガネ店にないものですね。先ほどの大きい物や、丸眼鏡、あっ、あなたの丸眼鏡鼻当てのない一山、いいフレームですね(褒められました)、それに跳ね上げ式、強度近視用の小さい物とかですね。
実は、昭和天皇ご愛用のもと同様のを置かせていただいているのです。18金の丸眼鏡です(ガラスケースから出していただきました)。今では金価格が上昇し、この価格ではとても難しいと思います。
伊集院さんのは、こちらの大き目タイプですね(そう言って棚から目の前に)。こうしたものは格安メガネ店にはないですね。こちらに並んでいるものが強度近視用です(たしかに小ぶり)。小さいのが好みという方も買われます。いい物かどうかは、昔の職人なら黙っていてもわかります。今は、ホームページや口コミでがんばって宣伝しなければなりません。
眼鏡作製技能士という資格
私ども素人にはわからないのですが、メガネはどう選べばいいのでしょう?
フレーム、検眼、調節、担当する人によってすべて違うんです。実は、選ぶ度数まで違ってきます。
完全矯正値というものがあります。その人が一番出る視力ですね。でも、それを出せばいいのかというと、そうでもない。よく見えること、疲れないこと、使いやすいこと、生活のどこで使うかですね。職業によっても、年齢によっても違う。
とくにパソコンが日常になってから、大きく変わりました。デスクトップか、ノートか、スマホか、すべて見る距離が違ってきます。何に使うための物か。パソコンでも1台だけを使うのか、何台も同時に使うのかによっても違うのです。まず仕事を聞く、使う距離を知りたいのです。
“眼鏡作製技能士”という国家資格が令和4年度からできます。ようやくです。先進国では、資格のない国は日本くらいでした。お医者さんの問診がありますよね。眼鏡もそうです。作りたい人の話を聞く。何に使うのか、何に困っているのか。眼鏡の問診ですね。
若い人は遠くが見えればOKという場合が多いのですが、歳を取るとそうはいかない。遠近か中近か近近か単焦点か。
近近なんてあるのですか?
そうです。さっき言った距離です。パソコンを見ている距離。1台と3台では違ってきますよね。レンズの4大メーカー(HOYA、東海光学、SEIKO、Nikon)があるのですが、それぞれ同じ中近や近近でもその距離によっていくつもレンズはあります。

シニアの方にはなんでも相談してほしい
コンタクトはどうでしょう。売れ行きに影響はありましたか?
コンタクトレンズは、うちでは扱っていません。眼鏡と違って、医者の処方箋がいります。コンタクトが出て、確かに売れ行きに影響はありました。ただ、2つは使い方が違います。いまは、どちらも使いわける方が増えましたね。コンタクトだけですと涙の量が少なくなって、途中で眼鏡にされたりですね。
レーシックはリスクがあるようで、今は少なくなりましたね。ICL(角膜を削らない視力回復手術)のほうが多いのではないでしょうか。
サングラスは流行ものでネットでも買えますから、そちらのほうに流れました。ただ、度付きサングラスは増えていますね。
ハズキルーペのような眼鏡型ルーペも、使い方があります。眼鏡の上からかけたほうがいい人と、裸眼でかけたほうがいい人。ルーペがいい人と、老眼鏡がいい人。倍率が高いからいいわけでもない。
つまり、なんでもオールマイティではありません。あっ、眼鏡型ルーペに腰掛けないでくださいね。眼鏡は腰かけるものではありませんので。丁寧な人が眼鏡屋さんであってほしいですね。一人ひとりにとって、何がいいのか。私は、大学を出て眼鏡専門学校に入りました。最初から3代目として店を継ごうと思っていましたから。スタッフは4人。40代、30代、20代、私が59歳ですから、いい具合に年代が揃っています。店はがんばって続けたいですね。
シニアの方に伝えたいことはなんでしょう?
眼鏡屋に何でもご相談いただきたいですね。無口にはならないで、困っていることを具体的に教えてほしい。コミュニケーションを活発化していただきたい。
私たちは話をお聞きしますが、それをそのまま受け取るわけではないのです。話をお聞きするのがとても大切ですが、それをそのままでなく専門家として読み取ります。もちろん勉強不足な眼鏡屋さんもいます。とにかく売りたいを優先する方もいます。
ですから、信頼できる方のいる眼鏡屋さんと出会うことですね。それには、さきほどの国家資格“眼鏡作製技能士”かどうかが基準となります。この資格がなくてもメガネは売れます。そこをチェックいただき、いろいろ話していただく。ご自分の大切な眼を守るためですから、努力を惜しまないでいただきたい。
ああ、ブルーライトカット眼鏡ですが、まぶしい人は使ったほうがいいのですが、カット率が高ければいいというわけではありません。特にお子さんは、あまり使わないように。発育に悪影響が出るとの見解が学会から出ています。
どんどん皆さん、眼鏡屋にわがままを言ってください。眼鏡に対して要求が難しい方が“これいいね”と言ってくださる瞬間が、私には一番うれしいのです。


