シニアライフに重要な年金問題
厚生年金44年特例は60~64歳で受け取れる特別支給において、特定の条件を満たすことで定額部分を早く受け取れるようになる制度です。一見、条件を満たしているのであれば利用すべき制度に思えるかもしれませんが、メリットとデメリットもあります。
本記事では、厚生年金44年特例の内容や条件、メリット、デメリットなどについて詳しく解説します。
まずは「特別支給」について理解しよう
厚生年金44年特例について理解するためには、「特別支給」について知る必要があります。
2023年時点における老齢基礎年金(国民年金)や老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳です。現在は、条件を満たした場合に60~64歳の間に「特別支給」を受けることができます。
すなわち、特別支給は厚生年金の支給開始年齢を65歳へ引き上げた際の経済的な影響を和らげるために設けられた制度です。
この特別支給には、老齢基礎年金に相当する「定額部分」と、老齢厚生年金に相当する「報酬比例部分」があり、通常は報酬比例部分を受け取り始めてから数年後に定額部分の受け取りが開始します。
厚生年金44年特例とは
厚生年金44年特例は、厚生年金の加入期間が44年以上の人が特定の条件を満たしたとき、特別支給の「報酬比例部分」に加えて、「定額部分」の受取開始時期が到来する前に受取を開始できる制度です。例えば、昭和18年4月2日~昭和18年4月1日までに生まれた男性は、報酬比例部分は60歳から、定額部分は61歳から受取を開始できます。
厚生年金44年特例が適用されると、60歳から報酬比例部分と定額部分の両方の受取を開始できるのです。
つまり、報酬比例部分に上乗せする形で定額部分の受取を同時に開始できます。これにより収入が増加し、厚生年金の受給年齢の引き上げの影響をさらに緩和できるでしょう。
厚生年金44年特例を受けるための条件
厚生年金44年特例は特別支給にかかる特例のため、特別支給を受けるための条件を満たしているかどうかの確認が必要です。特別支給を受けるための条件は次のとおりです。
・昭和36年4月1日以前に生まれた男性
・昭和41年4月1日以前に生まれた女性
・老齢基礎年金の受給資格期間(10年)がある
・厚生年金保険に1年以上加入していた
・生年月日に応じた受給開始年齢に達している
なお、在職中の場合は特別支給を受けられない可能性があります。収入に応じて異なるため、詳しくは年金事務所に問い合わせてください。
特別支給を受ける条件を満たしたうえで、以下のいずれかの被保険者期間が44年以上の場合に制度を利用できます。但し、それぞれの期間の合算はできません。
・日本年金機構の管理する厚生年金保険被保険者期間
・公務員共済組合に加入している厚生年金保険被保険者期間
・私学共済に加入している被保険者期間
厚生年金44年特例が適用された場合の支給額
44年特例が適用された場合の支給額は、「報酬比例部分」+「定額部分」で算出します。報酬比例部分の支給額は、加入期間や収入などで異なります。定額部分の支給額の計算式は以下のとおりです(令和5年4月分~)。
67歳以下の方(昭和31年4月2日以後生まれ)……1,657円×生年月日に応じた率×被保険者期間の月数
68歳以上の方(昭和31年4月1日以前生まれ)……1,652円×生年月日に応じた率×被保険者期間の月数
「生年月日に応じた率」は、日本年金機構のページを参照してください。昭和21年4月2日以後生まれの場合は「1.000」です。
「被保険者期間の月数」については、以下のように上限が定められています。
・昭和9年4月2日から昭和19年4月1日生まれ……444カ月
・昭和19年4月2日から昭和20年4月1日生まれ……456カ月
・昭和20年4月2日から昭和21年4月1日生まれ……468カ月
・昭和21年4月2日以後生まれ……480カ月
例えば、67歳以下の方で被保険者期間の月数が480カ月の場合は、以下のように算出します。
1,657円×生年月日に応じた率「1.000」×被保険者期間の月数480カ月=79万5,360円
この定額部分に報酬比例部分を加えた金額が総支給額です。
厚生年金の44年特例を利用するメリット
定額部分が本来の支給開始年齢よりも早い段階で支給されるため、年金の受取期間が長くなります。60歳で退職し、65歳まで無収入になると生活が困窮する恐れがあります。特別支給および44年特例を利用することで、老後の生活への影響を抑えることができます。
日本年金機構の「令和5年4月分からの年金額等について」によると、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額は、令和5年度は22万4,482円です。それでは、実際の生活費について詳しく見ていきましょう。
生命保険文化センターの調査によると、老後生活にどの程度の生活費が必要と考えているか20~60代の男女に質問したところ、平均は月額22.1万円でした。分布は、「20~25万円未満」が29.4%と最も多く、「30~40万円未満」(17.0%)、「25~30万円未満」(13.1%)が続きます。
出典:生命保険文化センター「令和元年度生活保障に関する調査[KR2] (P.90)」
ゆとりある生活を送るためにはさらに多くの収入が必要なため、年金だけでは足りないと感じる方もいるでしょう。
厚生年金の44年特例を利用するデメリット
厚生年金の特別支給および44年特例は、受給開始年齢の引き上げによる経済的な負担を減らすことを目的としています。そのため、一定額を超える収入がある場合は利用できません。退職して特別支給および44年特例を利用するか、このまま働き続けるかを選択する必要があります。
具体的には、下記に該当すると特別支給は受けることができません。
<基本月額と総報酬月額相当額の合計額が48万円超>
基本月額……加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額
総報酬月額相当額……(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
出典:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
安定した収入がある場合は、特別支給を受けるのではなくそのまま65歳まで働き続けた方がよい可能性があります。
また、高年齢雇用安定法によって65歳までの雇用が義務づけられています。さらに、2021年以降は70歳までの雇用機会の確保が努力義務とされているため、いずれは65歳より前に退職することは一般的ではなくなるかもしれません。
厚生年金の44年特例を利用するかどうかは慎重に
厚生年金の44年特例は、メリット、デメリットを理解したうえで慎重に検討することが大切です。44年特例を利用することで、本来支給されない特別支給の老齢厚生年金の定額部分を早く受け取れるため、経済的な余裕を持つことができるかもしれません。いっぽう、働いた方が結果的に経済的な余裕が大きくなる可能性もあります。
今回、紹介した内容を参考にご自身にとって最善の方法を考えてください。
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