61歳で自分たちの劇団をスタート

長澄桃子さんは、埼玉を拠点にされているミュージカル劇団「GADSMITH(ガッドスミス)」の中心メンバーです。

GADSMITHは、「楽しみを見出すプロ」という意味を込めて名付けられました。ミュージカル・古典劇・朗読劇・オーディブルストーリー等の公演、出張パフォーマンス、レッスンの開催etc…、幅広く活動しています。

劇団四季出身の桃子さんとご主人の修さんは、2017年まで30年余り、関東国際高等学校演劇科で指導者として活躍されてきました。高校での指導を終えた直後、桃子さん61歳で、劇団「GADSMITH」を立ち上げました。

ご主人の修さんが演出、桃子さんが脚本と作詞を担当されています。最近では、73歳の修さん、66歳の桃子さん、ともに役者として舞台に立っています。

還暦をこえてから劇団を立ち上げた理由は・・・

セリフだけではなくダンスもある、なかなか激しい練習ですが、疲れませんか。

すごく疲れますよー。

61歳といえば普通ならリタイアを考えるころです。そんなタイミングで「GADSMITH」を立ち上げた経緯を教えてください。

高校、大学と演劇部、その後は、劇団四季に所属していました。結婚して劇団四季を辞めたのですが、浅利慶太さんとのつながりで関東国際高校の演劇科の指導者になりました。

高校のカリキュラムの中で、卒業公演はとても大きなイベントでした。しばらくは劇団四季の演目をやっていたのですが、児童文学作家の岡田淳さんとの出会いがあり、オリジナルミュージカルができるようになりました。

岡田淳さんの原作を私が脚本にし、夫の長澄修が演出していました。こういう形で、2000年から2017年まで、卒業公演でオリジナルミュージカルを続けてきたのです。

残念なことに、2017年に関東国際高校の演劇科が終了することになりましたが、岡田淳さん原作のオリジナルミュージカルを世に出し続けたいという思いが強くありました。それなら、高校の演劇科の指導者(先生)たちが、教える側からパフォーマーとして頑張ろうと。自分たちで劇団を立ち上げようということになりました。その時、私は60歳を過ぎていました。

「GADSMITH」で目指していることはどのようなことですか。

先ほども言ったように、ひとつは岡田淳さんの作品をミュージカルとして世に出していくことです。

それと、浅利慶太さんのメソッドで「美しい日本語」というのがあるのですが、そういったものも伝えたいと思っています。単なる母音法ではなく、私たちなりにいきついた、いきいきとした日本語、音楽的な言葉というようなメソッドを伝えたいと思っています。

また、お見せするからには、本物のエンターテインメントでなくてはならない、役者たちは発声など基礎がしっかりしていなくてはならない、とも考えています。

大きなポイントは、私たち「GADSMITH」は、生計を立てるための劇団ではないということです。あくまでも理想を追求したいのです。メンバーは生活のために、それぞれ別の場で仕事をしています。私たちは、お客様に「観にきて楽しかった」「また観たい」と感じていただくこと、それを純粋に目指しています。

「GADSMITH」の主な活動を教えてください。

岡田淳さん原作のオリジナルミュージカルを年に1回、それと「play! Song&Dance」を年に1回という形に固まってきています。

「play! Song&Dance」は、朗読劇、歌、ダンス、プチミュージカル、古典劇の一部などで構成していて、メンバーそれぞれの得意分野を活かすようにしています。朗読劇では長澄修が言葉の力でドラマチックな語りを演じますし、ダンス畑出身者はダンスパフォーマンスで力を発揮します。音楽畑出身者は歌で力を発揮します。

そういえば、長澄修の姉は長年ニューヨークにいたオペラ歌手なのですが、今年の12月の「play! Song&Dance」でアリアを披露することになっています。今、79歳ですが、12月には80歳になっているかもしれません。音楽の斎藤信雄先生もいらっしゃるので、アリアが充実しそうです。

メンバーの方の年齢幅が広いようにお見受けしましたが、構成メンバーについて教えてください。

現在のメンバーは9人です。20代、30代、40代というふうに70代まで年代ごとにメンバーがいます。
私たちのような劇団四季出身者、関東国際高校の演劇科でダンスや歌を教えていた先生の他、高校の演劇科の卒業生、また、長澄修についていきたいと新たに加わったメンバーもいます。

一番若いメンバーは関東国際高校演劇科の最後の卒業生で、今大学生です。娘の長澄小鳩が「GADSMITH」の代表として、劇団運営を担っています。

メンバーはそれぞれ、トリマー、ダンスの先生、音楽の先生など他の仕事をしながら「GADSMITH」の活動をしています。この9人という少ないメンバーでも、できるオリジナルミュージカルをやろうと思っています。

また、メンバーは皆、過去に長澄修の演出で高校生が演技者として大きく変貌してゆくマジックを見てきています。ですから、長澄修の演出で自分を活かしてもらうことを楽しみに集まってきています。

娘の小鳩も、とにかく修先生を尊敬していて、ミュージカルをやるための他の選択肢を選ばずに、「GADSMITH」で活動しています。

桃子さんが舞台に立っているのを見て、正直びっくりしました。長いブランクがあって、舞台に立つことに抵抗感はありませんでしたか。

少ないメンバーでやっていくためには、自分もパフォーマーにならないと回らないという事情が大きいのです。

実は昨日も、娘の小鳩に同じことを何回も何回も指導されました。舞台に立つからには、痛々しいと思われないようにしなくてはと思っています。高校で指導者をしていた間は座ってばかりいたので、舞台に立てるような身体の状態ではなくなっていました。舞台に立ち始めた当初は足がつったりしました。今は、舞台に立つにふさわしい身体になるように鍛えています。

長澄修は当初演出だけということだったのですが、やはり演技者として一番実力があるので、舞台に立ったほうがいいだろうということになりました。

「本物」を追求したい。許される限り、舞台に立ち続けたい

パフォーマンス面だけでなく、本格的な舞台を作りあげていますが、劇団の運営状況はどうなのでしょうか。

興行的にはまだヨチヨチ歩きの状態です。劇団最初の公演をいきなり大きなホールでしたのですが、人が入らなくてびっくりしました。高校の卒業公演は大きなホールでやっても、いつも満杯だったからです。当然同じように入ると思ってしまって。もちろん公演として良いものだということもあるのですが、無料ということと自分の子どもが出演していることも大きかったのだと気づきました。義理ではなく、お金をいただいて観に来ていただくことは大変なことなのだと実感しました。

今は小ホールで公演をおこなっていますが、現状も500席が完全に埋まることはありません。それでも「GADSMITH」の公演を楽しみにしてくださる方が徐々に増えてきています。三世代で観にきてくださるお客様もいて、とてもうれしく感じています。

エンターテインメントとして本物をお見せしたいので、照明や音響もプロの実力のある方にお願いしています。また、代表の長澄小鳩の方針で中学生以下は500円、膝にのって観ることができるお子さんは無料にしています。結果として赤字になってしまうこともあります。儲かることは考えていませんが、収支トントンになればいいなとは思っています。

劇団の収支以外に、課題となっていることはありますか。

少しずつ固定したお客様は増えてきているのですが、口コミが中心で、なかなか新しいお客様が入ってきません。聞いたこともない劇団の公演にお金を払って観にきていただくのは、とてもハードルが高いのです。いろいろ考えているのですが、これといった打つ手がないのが現状です。

それと、新しいメンバーを受け入れて、若い芽を育てたいとも思っていますが、拠点となる稽古場を持っていないので、それもなかなか難しいのです。何がなんでもGADSMITHの舞台に立ちたいと思う人がいれば、修さんに育てる力はあるのですが。

劇団の活動に関連して、新たに始めたことはありますか。

私たちの舞台を観てくれた大学時代の先輩から、最近滑舌が悪くなったというお話を聞き、ストレッチと腹式呼吸の発声を教え始めました。まだ少人数なのですが、今後フレイル予防で、演劇でおこなっているトレーニングを活用するというのは需要がありそうだなと感じています。何しろ、体幹を鍛えるのは発声練習が一番ですから。

生涯現役で舞台に立っていそうな予感がしますが、最後に、桃子さんの今後の抱負をお聞かせください。

実は結婚して劇団四季を辞めるときに、浅利慶太さんに「本当は女優になりたかったんじゃないの」と言われました。私は「80歳になったときに、女優になっています」なんて答えたんです。今が、夢を叶えるタイミングだったのかもしれません。痛々しいと思われるのはイヤですが、許される限り舞台に立ち続けたいと思っています。

本物になっていくのは時間がかかるのだと思います。このまま本物を追求していきたい、やればやるほど本物の道が見えてくると感じています。修さんにしても、年齢を経て、見た目に左右されずに、逆にいろいろな役ができるようになってきています。そういう意味で、再び舞台に立つタイミングだったのかもしれません。

それと、やはり「美しい日本語」にはこだわりたいと思っています。

芝居をする中で、美しい日本語を広めたいのです。何を言っているかはっきり聞こえる、そして、抑揚があって音楽的、言葉でニュアンスまで伝わるような。言ってみれば、人の心が伝わる日本語です。よく「人の心に絵を描く」というふうに言っています。

劇団を立ち上げて5年たって、ようやく、ミュージカル劇団「GADSMITH」と、てらいなく言えるようになってきました。まず10年やってみようと始めた劇団です。それが、15年、20年と積み重ねていければいいなと思っています。

ミュージカル劇団GADSMITH(ガッドスミス) 
オリジナルミュージカル「リクエストは星の話」についてはコチラ

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