仕事と介護の両立を考える

今回は、株式会社ワーク&ケアバランス研究所代表であり、一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS:Kaigorishoku Boushitaisaku Sokushinkikou)の代表理事を務められる 和氣美枝先生にインタビューしました。 

和氣先生は、会社の経営理念に「No More介護離職」を掲げ、少子高齢化社会で労働力不足のなか懸念される「介護離職」という課題に対し、個人の相談から企業・自治体向けセミナーまで幅広く取り組まれています。 

2025年7月には自身3冊目の著書「介護離職が頭をよぎったら整えたい仕事・家庭・自分自身のこと(翔泳社)」を上梓されたばかり。本書は「介護が気になるけどキャリアを諦めたくない」「仕事を辞める前に考えておくべきことって?」などが、読みやすく解説されています。 
 
当ホームページの読者の皆さんのなかには、実際に現在家族の介護をされているかたや、これから介護に直面しそうなかたも多いはずです。 

介護に直面した時、どのような考え方や行動が求められるのかを、和氣先生に教えていただきました。 

「介護者支援」の考え方を広めたい

先生が「介護者支援」の問題に取り組まれたきっかけを教えてください。 

私自身、家族が要介護になった時に、最初はわからないことだらけで悩んでしまったんです。誰も助けてくれないし、何が正しくて何が間違っているのかわからないと思っていました。「まわりの人たちはどうしているのだろう?」と、悶々としていました。 

そんな中、「介護者支援」の活動をされているNPO法人の集いに参加して、心底安心できたんです。その集いには私が欲していた情報があって、私と同じように介護退職をした仲間もいました。 

私はこの「介護者支援」に本当に助けられました。「介護者支援」という考え方をもっと広く知ってもらうべきだと思うようになりました。そのためには発信力が必要だと考え、ビジネスにすることを考えました。 

介護者支援の一環として「介護離職防止」も訴えていたのですが、その後、国が「介護離職ゼロ」を掲げたので、介護離職防止の課題解決をすることを前面に出しながら「介護者支援」の活動をしているのです。 

家族の介護が始まったとき、最初に考えるべきことは何でしょうか? 

状況によりますね。

最初はみなさん「介護ってどんなもの?」ということを理解されていないケースもあります。 

例えば、急に転んで骨折するなどの状態になった場合は、最初は病院に連れて行くじゃないですか。この時点では、ご家族はまだ「介護」というものに直面していると思っていないわけです。病院から言われて初めて「え、介護?」となったりしますね。 

入院から介護が始まることが多いので、その場合は病院の相談室へ。徐々に介護が必要になってきた場合は 地域包括支援センターに相談するのがよいです。 

そしてその時に「自分の生活をどうするか」を同時に考えることが大切です。これは「仕事をどうするか」ということにも直結します。 

介護と離職は直結しない

家族が介護になって、「・・・仕事、どうしよう」と悩んだとき、まず誰に相談すべきでしょう?

「仕事どうしよう?」と思うのであれば、職場の上司に相談ですね。

「介護が始まったら辞めるしかない」と思い込むのは極端です。現在は 育児・介護休業法 により、介護を理由に不利益な配置転換や処遇を受けることは禁止されています。会社と話し合うことで、働き方を調整しながら介護と仕事の両立を模索できます。

なるほど。「介護のために仕事を辞める」という選択は避けるべきでしょうか? 

結局はご自身が決めることですので、ご自身が納得される形を模索しなくてはなりません。そのためにはいろいろな情報を収集することが必要ですし、そのような時は、私のところに相談に来てくれればと思いますね。 

私は、介護離職は「ダメ」だとは思いません。介護に専念するために退職するのも一つの選択です。ただし、辞めると経済的にも精神的にも困難を抱える場合が多く、再就職も難しくなります。だからこそ「自分はどう生きたいのか?」を考えることが重要です。 

「介護って、どのくらい続くかわからないし」と考えると、尚更「どうしよう?」と悩んでしまうこともあると思うのですが。

どのくらい続くかわからないのは介護だけではないですよ。あなた自身の人生だって、いつまで続くかわからないわけですから。 
 
先が見えない介護の不安で押しつぶされそうであれば、目標を決めたら良いと思います。「あと1年は在宅で頑張ってみよう」とか「親の年齢が80歳になるまでは、独居で頑張ってもらおう」とか。そしてその時期になったら、状況は変わっているので、その時また考えればいいと思います。 

自分の人生と介護を切り離して考える

「自分はどう生きたいのか」を考えるとは、家族の介護と自分の人生を切り分けるということでしょうか?

そうです。自分の人生と親御さんの人生は別物です。 

「私が全部背負わなければ」と考えると、介護者自身が苦しくなっていきます。 

そんな時に「自分はどう生きたいのか?」を考えれば、「そのための環境をどう整えようか?」という気持ちになります。環境を整えるということは、介護保険制度や専門サービスを活用し、任せられる部分はプロにお願いするなどですね。介護のプロや司法のプロの力を借りて、納得のいく方法を模索する、とでも言いましょうか・・。 

介護保険とは何か?介護を支えるサービスにはどんなものがあるのか?などの情報収集は、早いうちにしておいた方が良いです。それにより、焦らずに対応できることも多いですから。 

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