シニアのための履歴書(1)

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シニアが書類選考を通過するためには

「書類選考」から「面接」に進まないのはどうして?

50歳を過ぎると、就職・転職活動が一気に厳しくなります。企業は人手不足のはずなのに、シニアが履歴書・経歴書を提出しても、なかなか面接にこぎ着けることができない。それは何故でしょう。

まず、第一に考えられるのは年齢差別や偏見です。企業によっては、シニアの方たちのスキルが最新の技術やトレンドに適合していないと誤解することがあります。急速なテクノロジーの進化や業界の変化に追いつけるかといった柔軟性や適応力を疑問視されることがあり、これが年齢に基づく差別や偏見の一因となることがあります。 また、長いキャリアを持つシニアの方たちは、給与や待遇の面で要求が高くなることがあるため、これをコストの増加と見なす企業もあります。いわゆるスキルとナレッジをコストという天秤にかけた場合、若い人材の採用のほうがコストを抑えられるとするステレオタイプの人事部による弊害といえます。また、若さやエネルギーを重視するカルチャーが根付いている組織では、そもそもシニアの人材活用という発想を持つことは難しいでしょうが。

今回は、実際に再就職に苦労されたミドルシニアの松本さんの経験談から、キャリアコンサルタントの髙平ゆかり先生に「シニアの履歴書作成のコツ」を伝授してもらいました。

今まさに、転職、再就職しようとしているシニアの方は是非最後までお読みください。

協会代表理事 増田(左)髙平ゆかり先生(中)ミドルシニア 松本さん(右)

計25社に履歴書を送ったけれど、面接してもらえなかった

松本さん(66歳)は広告業界で65歳まで就業。まだ働きたいと64歳から転職活動を始めましたが、その時に大変な苦労をされたとのこと。いったいどんな状況だったのか、その時の様子をお聞きしてみました。

増田

松本さんは再雇用後の再就職でかなり苦労をされたとお聞きしています。
具体的なお話をお聞かせいただけますか。

私は長いあいだ広告業界で働いてきて、定年退職後もこの仕事を続けたいと思っていました。企業の広告宣伝担当を中心に、10社ほど広告関係の求人に応募しましたが、全て書類選考で落ちてしまいました。
そこで少し範囲を広げて、NPO法人の広報や外国映画の吹替作業の担当とか、広告関係ではありませんが野球が好きなのでグランド管理の仕事とか、色々な求人に応募しましたが、全ての求人に落ちてしまいました。

増田

全部で何社ほど受けられたのでしょうか?

25社です。全て書類選考で落ちました。1社も面接まで進めませんでした。

増田

25社! それは、心が折れそうですね。
その求人はシニア向け求人だったのでしょうか?

特にシニア向けというわけでもありませんが、すべて年齢不問の求人でした。 それでも不安に思って、念のため応募前に人事の方に「65歳ですが、履歴書を送れば本当に検討してもらえるのでしょうか」と電話したほどです。どこも「問題ありません」と答えてくれたので応募しましたが、結局ダメでした。年齢の壁を感じましたね。

増田

そこまでいくと、もはや「年齢不問」と書いてあっても信じられないですよね。大変でしたね。

就職活動がうまくいかない時は誰でも落ち込むものです。面接に進むことができれば自己PRもできますが、手前の書類選考で落とされるのは辛いですね。

次のページでは、シニアのセカンドキャリアに長年関わってきた髙平先生の、具体的なアドバイスをお送りします。

自分語りの履歴書はNGです

増田

髙平先生、ここまで松本さんのお話を聞いて、何かアドバイスはありますでしょうか?

髙平ゆかり先生

松本さんは履歴書と職務経歴書を出されたと思いますが、その職務経歴書にはどんなことを書かれていましたか?
今まで担当されてきた企業や、どのような仕事をしてきたか、ということを書かれたのですよね?

そうです。更に「私はこんなことが出来ます」といった文章を書いて、別紙にして一緒に提出しました。

髙平ゆかり先生

そこには「相手が主語になった文章」はありましたか?
分かりやすくいうと「貴社は現在◯◯の領域にチカラを入れていますよね?私はその領域で◯◯の実績を持っていますから、貢献できると思います。具体的には〜」というような、企業のことを調べた上でのコメントなどは入れてありましたか?

……。今考えると無かったですね。

髙平ゆかり先生

ご自分が伝えたいこと、ご自分の輝かしいところを書き並べて、ラブレターのように「私はこれが出来ます」って書いたら「この人、なに言っているの?」「うちの会社のこと、どう思っているの?」「うちが何をしている会社か知ってるの?」って相手は思います。もしかして、ご自分の事だけ書いていたんじゃないですか?

確かに、自分のことだけ書いていました。

髙平ゆかり先生

募集している会社のことを良く調べて、その会社に自分の経験がどのようにフィットするかを書かないと、相手には響きません。
書類が一方通行になってしまっているんですね。確かに年齢の壁もありますけど、履歴書が「自分語りの書類」になってしまっていて、相手目線になっていないのです。

なるほど……(汗)

髙平ゆかり先生

それと、グランド管理の仕事ですが、求人側にしてみれば「広告会社に勤務していた人がなんで応募してくるの?」と思いますよね。
これまでの職歴と違う領域の仕事に応募しようと思ったら「なぜ応募するのか?」をできるだけ分かりやすく伝えなくてはなりません。これまでの職歴・経歴しか書いてなかったら、相手も共感しません。
あと、外国映画の吹替作業担当者の応募ですが、実際そのような経験はあるんですか。

映画ではありませんが、企業紹介の映像で吹替作業は何度も行った経験はあります。

髙平ゆかり先生

そうであれば、その経験を中心に経歴を書かないと……。
A社を担当していました、B社を担当していました、と書いても、せっかくの応募に適した経験の濃度が薄まっちゃうんですよ、余計な経歴は削除した方が良いのです。
全部を書くのではなく、相手に合わせて削るところは削る。手間はかかりますが、その手間を惜しんで毎回同じ書類を送っていてはダメです。
応募する側は「できるだけ多くを伝えないと」と思ってしまいがちなんですが、捨てる勇気も必要。要は相手に合わせてポイントを絞ることです。

確かにそうですね……。

髙平ゆかり先生

書き方としては、応募する会社、職種に対して「なぜ応募するか」「どのような思いで応募するのか」という応募動機を書き、次に応募動機の根拠となる「活かせる能力」を書きます。自分の経験を伝えるところは、より具体的に書いたほうがいいです。
そして資格や免許やPCスキルなどはそんなに多く書かないで、コンパクトにわかりやすくまとめたほうがいいと思います。
松本さんは履歴書1枚、職務経歴書2枚、更に別紙1枚、そうすると合計4枚になりますよね。枚数が多いと、企業側はその枚数を見ただけで萎えてしまって、もう読まないんですよ。

履歴書を出す側の自分視点だけでなく、受け取る側の視点がふんだんに盛り込まれていないと相手にされないということですね。

次ページでは、もっと具体的な「シニアの履歴書の書き方」について髙平先生にアドバイスをもらいます。

枚数が多いと、企業側は萎えてしまう

増田

松本さん、就職活動で髙平先生のようなアドバイスをしてくれる方はいましたか?

いませんでした。再就職に向けたセミナーはいろいろ受けましたが、ここまでのアドバイスをもらったことは皆無でした。

増田

事前に今日のお話を聞いていたら、履歴書や職歴書の書き方は変わっていましたか?

そうですね、変わっていたと思います。

髙平ゆかり先生

松本さんのようなパターンは多いですし、それが一般的です。松本さん、責めた言い方をしてしまってごめんなさい

いえ、逆にいろいろ教えていただいてありがとうございました。

増田

高平先生、改善ポイントがわかれば、面接してもらえるシニアが増えそうですね。ちなみに、履歴書や経歴書のボリュームはどの程度が理想的なのでしょうか?

髙平ゆかり先生

シニアは長年働いてきていますから、経歴書を書こうと思えばいくらでも書けるのです。でも受け取る側にしてみれば、あまりに経歴書の枚数が多いのは読む気になりづらく萎えてしまいます。先ほども言いましたが「削る作業」も必要なのです。
そもそもシニアが、若者と同じ履歴書フォーマットを使う必要はないと思います。一般的に履歴書は「学歴や職歴」の欄が一番広いわけですが、企業側にしてみればシニアの何十年も前の学歴など、検討材料にはなりづらいと思います。
企業が気にするのは何十年も前の話ではなく、ごく最近の職歴と、戦力として何ができるか?ですよね。

一般規格の履歴書はシニアに向いていない

ここで、一般的な履歴書を見てみましょう。

従来型のJIS規格履歴書

履歴書には「JIS規格」というものがあります。「JIS規格」とは「日本工業規格(Japan Industrial Standards)」の略称で、一般的に多く使われている履歴書がこれにあたります。ただ、就職や転職活動にこの「JIS規格」の履歴書の使用が義務付けられているわけではなく、特に企業側の指定がなければ、実際はどの用紙を使っても良いことになっています。

JIS規格の履歴書を見ると「学歴・職歴」の欄が最も広く構成されています。逆に、その人が「何ができるか?」「どんな人柄か?」は欄が小さく、読み取りづらいかたちになっています。

採用する側の企業にとって、シニアの何十年も前の学歴や職歴は採用の検討材料になりづらく、一方でその人が「何ができる人なのか」「どのような能力があるのか」「自社の課題解決ができるのか」などは、興味を持たれるはずです。JIS規格履歴書の利用が特に義務付いていないのであれば、シニアにはシニアに向いた企画書規格があっても良いのではないでしょうか。

次回、高平ゆかり先生監修のシニアのための新履歴書を発表しますので、乞うご期待ください。

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