キャリアコーチの佐藤恭太さん(36歳)はこれまでさまざまなキャリアを重ね、そのたびに自分と仕事に真剣に向き合ってきました。
何度も「人生をかけられる仕事とはなにか?社会のなかでの自分の価値とは何か?」を考えるなか、ようやくキャリアコーチの仕事に辿り着きました。
36歳になった今、50歳以上のシニア世代に特化した人材紹介支援サービス『シニアリブートプログラム』を立ち上げます。
「リブート」とは「再起動」のこと。佐藤さんの人柄、これまでのキャリア。そして、佐藤さんがこの事業を始めることになった理由や、シニアと、そして自分自身の「リブート(再起動)」にかける想いを、お伺いしました。

目次
自衛隊を皮切りに、飲食業などいくつかの職業を経験。その中で見えてきた自分の進むべき道
佐藤さんは大学卒業後、陸上自衛隊からご自身のキャリアをスタートさせています。身体を動かすことが好きだったのに加え、学生時代にケガで不完全燃焼に終わった陸上競技も続けられるではないか、という思いがあったそうです。まず、4年間の自衛隊での経験、辞めるに至った経緯をうかがいました。
「自衛隊ではつらいこともあったのですが、ここで頑張ろうと思っていました。転機になったのは、3年目に経験した新隊員の教育です。自分なりにメソッドを考えて取り組んでみたんです。そうしたら、直接の部下ではない隊員も、自然と自分のところに集まるようになり、評判を呼ぶようになりました。その結果、教育優秀賞を受賞しました。部下の育成ということに大きなやりがいを感じましたし、振り返れば、自衛隊時代の一番濃厚な一年となりました。でも、逆に、その後普通の部隊に戻ったときに、燃え尽き症候群というか、つまらないと感じてしまったんです。

それに加えて、自衛隊の定年は50代前半で、幹部であっても再就職先がシビアな状況も目の当たりにしました。このままでいいのかという疑問が起き始めて、自衛隊を辞める方向に気持ちが固まっていきました。」
部下の育成にやりがいを見出した佐藤さんは、その後、学生時代にアルバイトとして経験した飲食業の道へと進みます。新店舗の立ち上げなど、部下を育成する能力に加え、持ち前の発想力で活躍をします。
飲食業の仕事は、横浜のみなとみらい店からスタートし、いろいろな所に転勤しました。柏店で大きな成果を出したことが認められて、会社として初めて名古屋に出店するときに、立ち上げのマネージャーに選ばれたんです。そこで全国一位の売上で表彰されるなど成功を収めました。自分でも飲食業は天職だと思っていました。
忙しい時は何日も連続勤務することもあったのですが、きつくなかったんです。むしろ、楽しいというか、やりたいことをやっている感じでした。休みの日もスタッフ達と面談したりと、それくらい人生をかけた好きな仕事だったんです。アルバイトの学生達が卒業するときに、「店長に出会えてよかったです。」「バイトの概念が変わりました。」という手紙をくれるんです。すごく嬉しかったですね。」


飲食業が天職だと思っていた佐藤さんですが、ある店舗での失敗を機に、仕事への気持ちが切れてしまい、辞めることを考え始めます。
名古屋の次に立ち上げた表参道のお店で挫折を経験しました。仕事と人間関係でトラブルにあってしまい、疲れ切ってしまいました。一旦店舗の現場から離れて、店長達のサポートに回りました。でも、自分には何ができるのだろうと後ろ向きな気持ちになったんです。
6年間モチベーション高く関わっていた飲食業から離れた佐藤さんは、その後、やりたいことに巡り合えずに、いくつかの職業を転々とします。
飲食業を辞めた後、いわゆる「キャリア迷子」になったんです。「キャリア迷子」とは、やりたい仕事や将来の目標、自分にあった仕事や今やるべきことが明確になっておらず、どうしてよいか分からない状態に陥っている状態のことです。
手に職をつけたほうがいいと考えて、Webデザインの学校にも通ったんですけど、途中であまり好きじゃないなと気づいて止めました。Web会社の営業、経営コンサルと転々とし、別の飲食業でも仕事をしてみましたが、ジャンル的に自分に合わなく半年で辞めました。そのあとに入った広告会社も、やはり自分のやりたいことと違うなと感じて2年半で辞めました。
陸上自衛隊から始まり、様々な業種・職種を経験された佐藤さん。その中で、自分の進むべき道がようやく見えてきたと言います。
いろいろと転々としたことで、自分のことが見てきましたね。キャリアに悩んで、いやという程深く考えて、辿り着いた答えは、「人が成長する瞬間をサポートすること」「人が生き生きと働いて成功するのをサポートすること」が、自分の好きなことで、しかも、得意なことだということでした。
今後私が提供するサービス『リブート・プログラム』では“自己理解研修”がありますが、それを自ら実践したようなものです。飲食業のときも、飲食の仕事そのものより、人材育成に興味があったんだと気付きました。そうした自己理解を経て、キャリアコンサルタントの道に進もうという決断に至りました。
キャリアコンサルタントに辿り着くまでの道のりで、佐藤さん自身が深く悩んだ経験は、今後キャリアに悩む人に相対していくときの大きなカギになりそうです。
“走ることは人生そのもの” 走ることがこれまでの道のりのきっかけをつくってくれた
仕事という面で、ひたむきに自分と向き合いながら意欲的に歩んできている佐藤さんですが、その内面の核となっているのはどのようなことなのか、興味がわいてきます。佐藤さんにとっては「陸上競技との出会い」がひとつの契機となっているようです。
陸上競技のおかげで今の自分があると言っても過言ではありません。陸上競技がない未来は想像がつかないくらい、かけがえのないものなんです。身体をケアしながら、死ぬまで走りたいと思っています。(笑)
陸上競技との出会いは小学生のときでした。小学校2年で転校した時に「足が速そう」と言われてしまって、プレッシャーで死ぬ気で走ったら、校内250人中17位に入りました。ちなみに転校する前の小学校では走ることが嫌いでビリを争っていたんですけどね(笑)。それが、走り始めたきっかけです。
その後、公立中学に進み、たまたま足の速いメンバーが集まっていて、市や県の駅伝大会で優勝しました。欲がでてきて、全国大会に行きたいと思うようになりました。仲間たちと練習メニューも考えて、1日最低でも20キロ走るくらい、必死で努力をしていました。結局、全国大会出場は叶いませんでしたが、すごくいい思い出です。

陸上競技が真ん中にある学生生活を送っていた佐藤さんですが、順風満帆にはいかなかったようです。
高校進学の際は、陸上で県の中で2番目の学校から推薦のオファーがあり、そこに進みました。ところが、ランニングフォームを試行錯誤しているうちに、スランプになり、高校3年間はそのまま終わってしまいました。
再起を目指して、推薦のオファーがあった大学に進学しました。しかし、大学1年の秋に、なんとアキレス腱を断裂していまいました。結局、その治療に3年間専念し、走ることも止めることになりました。
佐藤さんにとってむしろ、陸上競技はつらい経験なのではないかと感じてしまいますが、佐藤さんの陸上競技に対する気持ちはちょっと違っています。
自分を捧げると決めていた陸上競技がなくなってしまって、拠り所がなくなりました。それほど、陸上競技は自分にとって大きな存在でした。自分にとって熱量をもって挑めるものが何なのかわからなくなり、実は自衛隊から始まったキャリアはずっとそこを埋めるものを探していたのだと思います。言葉を換えると、自分が陸上競技に注いできたのと同じ熱量で、何かに挑みたい、成長したいという気持ちがあるのです。
陸上競技を通して身に着けてきた、挑戦する姿勢と主体的に行動する力で、今まさに佐藤さんは新しいビジネスを始めようとしています。佐藤さんが着目したのは、50歳以上のシニア世代に対するキャリア支援です。そこには、どのような思いがあるのでしょうか。
シニアリブートプログラムで、キャリア迷子になりがちなシニア達を勇気づけたい
佐藤さんが『シニアリブートプログラム』を立ち上げた背景をおうかがいしました。
人生100年時代と言われている中で、70歳までの就業確保が努力義務化されて、法的にはシニアに優しくなっています。でも、現実は追いついていません。
シニアが働くという前例がないので、シニア側もどうしていいかわからないし、受け入れる企業側もどうしていいかわからない。再雇用にしても、再就職にしても、定年を契機としたシニアの仕事探しには暗いイメージがあります。シニアの就業分野で成功事例をつくっていくことが、シニアの将来を豊かで明るいものに変えていくことにつながると考えています。

なぜ36歳の佐藤さんが敢えてシニアを対象とした再就職支援プログラムに挑むのか、その動機が知りたくなってきます。
未来につながることを、36歳の自分がトライすることに意義があるんだと思います。もちろん、シニアに近い世代の方たちができることもあるとは思うのですが、未来に対して自分ゴトとして取り組める自分たちだからこそ、できることもあると思います。何より自分たちでつくってきたと実感できる“未来”で働きたいですね。
佐藤さんが進めようとしている『シニアリブートプログラム』の特長はどのようなことなのか、ポイントを簡単に教えていただきました。
シニア側にとっても企業側にとっても、再就職をミスマッチのないものにしていくために、シニアの方たちに対して再就職の前と後にフォローするプログラムを組みます。
事前研修では、再就職を希望するシニアに、自己理解や新しい環境に向けてのマインドセットなどを促します。また、再就職した後の3カ月間は、不安なことや苦戦していることについて面談サポートをします。
事後の面談サポートは企業側にもおこない、双方で感じている問題点を私たちも含めて一緒に解決できるようにします。シニアの再就職がうまくいく事例をつくっていくことで、未来につながる道しるべをつくっていこうと考えています。

シニアの就労が抱える課題に関する、明確なヴィジョンと熱意をお持ちの佐藤さんですが、今後に向けて何か懸念点はあるのでしょうか。
シニアに対する再就職支援プログラムとして、就職前後の研修までおこなうサービスは前例がないので、企業側からの理解がどの程度得られるのかが未知数です。でも、やってみるしかないですね。
この事業で意識しているのは、シニアのことを本気で考えているという正直さや透明性、それに熱意なんです。正直さや透明性、熱意を武器に、乗り越えていきたいと考えています。
【編集後記】
ご自身のキャリア迷子の経験、陸上競技で身に着けてきた前向きな姿勢をテコに、新しい分野を切り拓こうとしている佐藤さん。そこにはシニアに対する温かい気持ちと未来を創っていこうという意志が感じられます。『シニアリブートプログラム』の今後に期待が高まります。