生涯現役で食文化に取り組む!

建設業界からのキャリアチェンジ

SDGsに関して、60歳以上のシニア世代のほうが若年層世代よりも認知度が高いということをご存知でしたでしょうか。ハルメクホールディングスのハルメク 生きかた上手研究所が昨年に実施した「SDGsに関する意識と実態調査」によると、内容を知っている、内容はなんとなく知っている人の割合が60歳代67%、70歳代72%に対して、30、40歳代が約60%という結果でありました。

そのSDGsの17の目標のうちの一つである「飢餓をゼロに」は世界から飢餓問題を撲滅することだけでなく、現状の大量の食料廃棄や今後予測される世界的人口の急増による食糧難といったことを解消することも含まれています。

萩原社長

今回、インタビューさせていただいた萩原章史(はぎわら あきふみ)さんは、39歳の時に既に「食」に関する問題意識と日本をもっと元気にしたいという想いから脱サラをして起業されました。創業から今年で23年目となる株式会社食文化の代表取締役社長として、うまいもんドットコム、豊洲市場ドットコム、さらに、雑誌dancyuの公式通販グルメサイトの運営を行なっています。

前職の延長線上での起業と思われるのが普通でありますが、萩原さんの前職は「食」とは全く関係のない建設業界だったのです。

「新卒で入社したのは中堅ゼネコンであった間組でした。博多の建設現場、そして、中国の現場を経験し、日本に戻って来た時に財務部に配属されました。その後、アメリカにも11年間駐在しましたが、日本の建設業界と政界の様々な汚職事件を身近なこととして経験もしました」

皆さんも記憶が風化していると思われますのであの当時の状況を振り返りますと、政界の汚職事件のきっかけになったとも考えられているのがウルグアイラウンド合意でした。貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行われた合意によって日本の農産品が多大な影響を受けることが予想されました。そのために、事業費、国費合わせて約8兆円の予算が組まれました。しかし、その予算のほとんどが農業の強化には使われずに、土地改良事業などの公共事業でゼネコンに流れたのでした

「アメリカに行って知ったのですが、日本は使途不明金の扱いが非常に緩い国であったと。マネーロンダリングが容易かったので、そういった政界との汚職も生まれ易かったと」

そんなことから公共工事が増えるいっぽうで、農業従事者が事業の継続が難しくなった状況から建設業界に転職する農業従事者も増加していきました。

「実は当初は、その農業従事者だった人たちを一次産業に戻す人材ビジネスでの起業を考えていました。でも、残念ながらその話が無理と分かった時点で、次に得意分野であった食ということで、一般流通にのらない地方の食材をネット販売するという事業で起業しました」

あと1ヶ月で39歳になる、そして、翌年は21世紀という2000年12月末日に萩原さんは退職をして、駐在していたアメリカから帰国。そして、2001年4月に、誰も始めていなかった食のEC事業を中野の雀荘跡地を拠点に立ち上げられました。

生涯現役であることが日本を変える!

楽天市場、Yahoo!ショッピングといったモール型ECサイトが誕生したのは1997年。そして、2000年にAmazonが書籍のEC販売を開始して、翌年にマーケットプレイスを開設。2003年に光回線が登場するまでは電話回線を使用した形式での通信でしたので、EC事業者は電話代がかさむという時代でした。

「ECなんて儲からないと周囲からは言われましたね。事実、創業してすぐに危うい状況になりました。でも、何とか乗り越えて今に至っているという感じです」

インターネット黎明期に先見の明があり、幾つもの仕事をパラレルで動かせる能力を活かして事業を拡大して来られた萩原さん。

「サラリーマンですと、55歳で役職定年ですよね。でも、その前の40歳で役員かどうかの会社としての見極めは始まっていて、遅くとも45歳ではその会社でのその後が決まっている。そうなると、後は流し運転になってしまうわけで。ゴールが決まってしまって緊張感がなくなってしまえば、人は向上しようとはしないですよ。それが、終身雇用制度の悪い点だと思うのです」

萩原さんの座右の銘は「生涯現役」。そして、今年3月、まさに、その座右の銘通りのタイトルの「生涯現役宣言/枯れない男になるための生き方」という本を執筆し出版されました。

「生産人口が加速度的に減少している日本。野生動物は死ぬまで現役なわけで、人間も勝手に老後などということを決めずに、死ぬ間際まで現役でいるべきだと思います。人間の細胞は食べたもので作られるわけですから、健康に配慮した食を摂ること。日本では禁止されていないですが、トランス脂肪酸などは絶対に摂取しない、化学的なものは口にしない。そのうえで、ますます進化していく医学の技術をもってすれば130歳までは生きられる時代なのです。人生100年時代と限定せずに、生涯現役として生きるという意識が日本を再生する鍵だと私は考えたので執筆しました」

萩原さんは社長として日々の業務、社員の管理も行ういっぽうで、毎日、家族のご飯も料理する。しかも、睡眠時間はきちんと8時間という生活スタイルを徹底されているそうです。そんな萩原さんの会社の社員数は34名。年商は50億円越えなので少数精鋭の会社であることが窺えます。

「社員には利他の精神と教養、そして、人望の三つがないと出世できないよと言っています。利他の精神で人や社会にギブをすればするほど自分に返ってくるものも多いです。また、様々な職能を獲得すれば教養も高まります。さらに、上にはペコペコ、下には横柄といった態度でなければ人望も集まり、その信頼を糧に大きな仕事を獲得することも可能になります。そして、当然ながら、そういう社員には報酬でリターンしてあげます。しかし、そうでない社員にはオブラートで包むことなく注意を与えますが(笑)」

生涯現役ということで120歳まで社長業をすると話す萩原さん。著書は40代男性をメインターゲットに枯れないための熱いアドバイスが満載となっていますが、国の少子化対策への辛口の持論も載せられています。

「SDGsなどもそうですが、問題の解決には総合的でかつ長期的な視野に立った具体的なビジョンをもった施策を継続的に行なっていかなければ、所詮は小手先だけで終わってしまうと思います。輸入飼料の価格の高騰によって畜産業が逼迫していることにしても、輸入飼料問題は将来的にも継続していくことが予想されているわけです。牛乳という点だけでいえば、輸入に頼る穀物系の濃厚飼料が大量に必要なホルスタインではなく、国内で自給できる粗飼料を主食とするジャージー牛にシフトしていくとか、中長期的に対応策を考えていくことが重要だと考えています。そもそも日本はジャージー牛がメインであった国なのですから、立ち返って行えば良いだけです」

再婚したお相手が宮司さんであったことから、ご自身も神職の資格を取得。そして、医学などの知識も含め、様々なジャンルの幅広い知識を持つ萩原さん。歳だから新しいことを覚えられないではなくて、習慣として学ぶというスタイルを継続しているか否かであると語ります。

「時間にしても、お金にしても、投資は良いけれども消費は良くないです。生涯現役でいるためには、自分への投資の継続は大切なことです」

過去を振り返って、あれが良かった、これが良かったではなく、シニアになっても5年後、10年後は何をしていようと考える萩原さんのような高い視座と健康があれば、日本の生産人口問題も緩和されていくはずですね。

萩原さんの著書『生涯現役宣言 枯れない男になるための生き方』

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