女性植木職人の元村貴久子さんが歩む“これから” 

仕事上のパートナーの死や息子の反抗期を超えて 

2年程前に、ずっと一緒に仕事をしてきて、頼りにしていた植木職人の方が亡くなられたんですね。 

城北造園で私の右腕として支えてくれていた職人さんが、ガンに罹って亡くなってしまったんです。

仕事の腕も確かだったのですが、子育てしながら仕事をする私をサポートしてくれていました。例えば、子どもの保育園の送迎も、現場の行き帰りに寄るようにしてくれたり、とてもお世話になったんです。その方が亡くなって、もう城北造園もやれないというくらい、気持ちが落ち込んでしまいました。彼がいなくなったことで実際にできない仕事も出てきてしまったんです。 

気持ちを切り替え、会社を縮小して続けていこうと考えていた矢先に、東京農大時代の先輩からバラの剪定の仕事がきました。今は少し方向転換をして、これまでの造園の仕事に加え、バラの剪定など仕事の幅を広げてやっていこうと考えています。

仕事をしながら、お一人で息子さん二人を育てるのは並大抵のことではないと思います。いろいろご苦労もあったのではないですか。 

今、息子たちは大学4年生と高校3年生です。忙しくて子どもに時間を割けず、どこにも連れて行ってあげられないし、ゆっくり話す時間もない。上の息子が高校に入った時に、一念発起して、毎日お弁当を作るようにしました。実は私はお弁当作りが苦手なんですけれど、息子たちが頑張っているから、私も頑張ろうと思って。今は、下の息子に毎日お弁当を作って、写真を撮って記録に残しています。 

子育てに関しては、反抗期もありましたし、悩むことも多かったのですが、ある時、上の息子にこう言われたんです。「お父さんがいないことで、寂しいと思ったことはない。お母さんが一人で頑張っていて大変そうだったから、それがブレーキになってきちんとしていられた」と。その言葉に、すごく救われました。私は無条件で息子たちを愛しているけれど、息子たちも私を無条件で受け入れてくれているんだと感動しました。 

上の息子は、小さい時からのお小遣いや高校時代のバイト代をコツコツ貯めていて、必要な時に使おうと思っていたようです。そして、大学を1年間休学しバイトして、自分の力で半年間海外の大学に留学しました。円安の影響もあって大変だったようですが、帰ってきたときに、すごく成長したなと感じました。

下の息子は、植物が好きなようで、「植木屋さんになろうかな」って言い始めています。私としては、植木職人にこだわらずに、植物に関わる仕事をしていけばいいのではないかと思っていますけれど。息子たちの様子をみていると、自立してきているなと実感します。

人生のセカンドステージに向けて、始動中。東京と故郷・秋田の二拠点生活も視野に 

息子さんたちもしっかりされてきて、ご自身も50歳を超えた現在、生き方に何か変化はありましたか。 

更年期に差し掛かった時に、心身ともに調子が悪くなったんです。これまでは子どものためにと思って頑張ってきたのですが、子どもが自立し始めると、何を軸に頑張ればいいのかわからなくなってしまいました。これまで自分を後回しにしてきたので、そろそろ自分自身を大切にした生き方に変えようと考え始めたんです。 

自分の好きなことに取り組もう、自分の時間を作ろうと決めました。今は、日々の生活リズムを変えたり、新しいことに挑戦したりし始めています。例えば、どんなに忙しくても、朝はお茶を飲んで本を読んでから、現場に行くとか。また、コロナの時に思い切り空気を吸いたくてなって山にトレッキングに行ってみたら、すごくすっきりしたんです。「私にはこれだな」と思って、それ以来、少しずつ山に登っています。

今後に向けて、仕事に関してはどのようにしていこうと考えていますか。 

私は“お一人様”ですから、生きていくために仕事をずっと続けていかなくてはならないとは思っています。植木職人の仕事にしても、同じことを続けることにはこだわらずに、時代に合わせて自分を変えながらやっていきたいと思っています。今は、大きなお屋敷が減り、建売住宅が増えてきています。その流れに沿って、小さなスペースでも楽しめるような植栽を提案していけたらと考えています。 

それと並行して、秋田の実家でもやりたいことを少しずつ始めたいと思っています。父が70歳から養蜂を始めていたんですが、今は施設に入ってしまって。その養蜂の仕事を引き継ごうと思っています。また、実家には田んぼや畑、栗山もあって、今は高齢の母が一人で頑張っています。できるだけ秋田に帰る機会を増やして、そこの管理も担っていきたいと考えています。いずれは、東京での造園の仕事と秋田での田舎暮らしという二拠点生活にしていくつもりです。 

少し前まで、太く短く生きればいいと思っていたのですが、そういうわけにはいかないですね(笑)。今後、細く長く生きると考えると、自分の好きなことを軸に、東京での造園の仕事も秋田での暮らしも、ひとつに絞らずいろいろやっていきたいです。それらの活動が、若い頃に関心があった地球環境のことにも繋がっていくと嬉しいですね。 

それに、秋田に息子たちに帰れる場所を作っておけるのもいいなと思っています。 

<編集後記>

小さなお子さんを抱えながら植木職人の世界に飛び込み、数々の困難を乗り越えてきた元村さん。実際にお会いすると、その柔らかな笑顔がとても印象的で、芯の強さと同時に柔軟さも感じさせる方です。

今後は、“ライスワーク(生活のための仕事)”だけでなく、“ライクワーク(好きな仕事)”、そして“ライフワーク(人生をかけた仕事)”を大事にしながら、より充実した日々を歩まれていくことと思います。 

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