「挑戦と発見を通じて、ポジティブに歳を重ねる社会をつくりたい」
株式会社AgeWellJapanは、“Age-Well(エイジウエル)”という概念を掲げ、シニアのウェルビーイングに寄り添う多様な事業を展開しています。(ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることで、単なる「健康」にとどまらず、持続的な幸福感を含む広い概念のこと)
「Age-Well」を直訳すると「よりよく、前向きに、幸せに、歳を重ねる」といった意味。代表取締役・赤木円香(あかぎ まどか)さんは「シニアが挑戦や発見を続け、能動的に年齢を重ね、ポジティブな生き方ができる文化を作りたい」と奮闘を続けています。
今回は東京・渋谷のオフィスにて、彼女の理念や事業運営、未来への展望をうかがいました。

目次
祖母の言葉が人生を変えた
赤木さんが起業されたのは26歳の頃とお聞きしました。
まずは起業に至った経緯を教えていただけますか?
私が”社会起業家”になりたいと思ったのは17歳のときで、マザーハウスの代表である山口絵理子さんの本「裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記 」(講談社)を読んで、社会を変える仕事に憧れを持ったんです。著者の山口さんの壮絶な生き様とやり遂げる姿に共感して「私も社会起業家になりたい」と思ったのがきっかけです。

17歳で「社会起業家になりたい」と考え、そこから約10年たった26歳で起業となられたのですよね。
起業のきっかけは、おばあさまのあるひと言だったということですが・・。
私のおばあちゃんなんですが、加齢とともに身の回りのことでできないことが増えてきて、周りに「ごめんなさいね、迷惑をかけて」と謝っている様子を目の当たりにしたんです。
本人から「長生きしすぎちゃったね」と言われて、とてもショックでした。
これまで苦労を重ねて親や私を育ててくれた、誰もが感謝すべき存在であるはずの祖母が、申し訳なさそうに謝る。
それを見て“長生きしてもいいと思える社会でないとおかしい”と思ったんです。
あと、謝る姿を見て思ったのは、加齢によって目が見えづらくなるとか耳が聞こえづらくなるとか、いままではできたことが出来なくなってくると、少しずつ自己肯定感が下がっていくんですね。 自分が家族や社会のお荷物だなってなってしまって、 口癖が「ごめんなさい」になる人ってすごい多くて、特に女性の方に多いんですよ。
男性も、お仕事をされていた時は役職もあって居場所もあって、でも退職されてからは「自分は何者なんだ?」 って、さらに体の不調とか出てくるともっと落ち込んでしまって、「こんなになっちゃってごめんね」とか、私は本当にそれが悲しいんです。
年をとって出来ることが減ってくると、確かにそうなってしまうかもしれませんね。
これは、社会全体が作った風潮、価値観であり文化であって、私はそれを変えていきたいと思ってます。
理想だなって思うことがあって、これは或る74歳の女性の方が仰っていたんですが
「まどかちゃん、私わかったことがある。目も見えづらくなったし、耳も聞こえづらくなったし、ちょっと物忘れかな? って思うこともある。でも、感受性や感性は衰えないってことがわかった。若い方から新しいことを教えてもらってワクワクしたり、ときめいたりするってことは衰えないんだ」って。
私はそれを聞いて、とっても素敵だなと思ったんです。
その女性の方はたくさん本も読まれるし経験もあるから、逆に私も本当にいろいろなことを教えてもらえます。
結婚や家庭生活での悩みだったり、お姑さんとの付き合い方だったり(笑)。だから、本来であれば知識や経験は交換し合うべきであり、例えば仕事として会社の中で普通にやられていることが、六十五歳とか定年っていう言葉を機に無くなってしまうのも絶対おかしいなって思います。
若者とシニアがつくる“もう一つの家族”
なるほど、そういった思いから、シニア世代のお宅に20〜30代の孫世代が伺ってコミュニケーションをする「もっとメイト」というサービスを作られたのですよね?
おばあちゃんも同じでしたが、高齢者の方は身の回りの困りごとがあっても「家族だと逆に頼みづらい」ということがあるということが分かったんです。なので、訪問して身の回りの困りごとの相談にのったり、一緒におでかけをしたりなどのサービス「もっとメイト」を始めました。
実際にお伺いするととても喜んでいただけて、「娘ができた」「孫ができたみたい」と言っていただけるんですよ。
そこでは「ポジティブな自己認識」というのをすごく大切にして対話をするようにしています。「あなたのここが素晴らしい」っていうことを、ご本人にも認識していただけるようにちゃんと対話するように心がけているんです。
例えば、出していただいた料理がとても美味しいとか、手先が器用だったりとか、記憶力が良くてスマホの使い方が上手いとか。そんなポジティブな意識づけの延長線上に「じゃあこれやってみませんか」ってご提案して、十数年ぶりにピアノに再チャレンジした方もいらしたり、YouTuberになられた方もいらっしゃいます。「あらこんなことが役立つのかしら?」 とか「あら、私ってこんなことができちゃうのね。」 といった自己肯定から次第にポジティブになって、じゃあ一歩踏み出そうというふうに変わっていくのが素晴らしいなと思っています。

それは嬉しい変化ですね。普段もっとメイトの方々が訪問した時はどんなお話しが多いのですか?
高齢者の方からの相談で最も多いのは、スマホの操作やLINE、ChatGPTの使い方などの「デジタルのお悩み」です。
高齢者の方は“新しい世界を知る喜び”を得られるのと同時に、若い人からエネルギーをもらい「もう一度挑戦してみよう」という前向きな気持ちになります。
一方で若い人にしてみれば、高齢者の方から経験談など聞いているなかで人生のロールモデルを見つけることもあります。
お互いに学び合える良い関係なのかなと思っています。
「もっとメイト」のサービスで、こだわっている部分はどんなところですか?
高齢者のお宅に伺うのにあたり、サービスのこだわりとして、訪問する若者は「サポーター」ではなく「デザイナー」であれ!と声をかけています。サポーターは「できなくなったことをできるように戻す」存在ですが、デザイナーは「0(ゼロ)からプラスの喜びを作る」存在だと思っています。
私はこのサービスは単なるアルバイトやボランティアではなく、誇りを持てる“職能”として確立したいと思っています。この「デザイナー」が増えるほど、日本の“Age-Well”文化が根づくと思っています。
定年は「会社の卒業」、社会からの卒業ではない
赤木さんは、シニアが働くという点についてどのようにお考えでしょうか?
また「社会保障」や「定年制度」を巡る課題についても、ご意見があればお伺いしたいです。
私は「定年は会社からの卒業であって、社会からの卒業ではない」と思っています。
今の50代・60代の方々は、一つの会社で勤め上げることを美学とされてきました。でもこれから残りの30年、40年をどう生きるか。そこには、もっと多くの選択肢があっても良いのではないかと思います。
東京大学の秋山教授が提唱されている「貢献寿命」という考え方が素敵だなと思っています。
健康寿命を伸ばすためには「貢献寿命」も大いに関わりがあるのではないでしょうか。社会に貢献できる自分でありたいと考えられれば、長生きすることを申し訳なく思うようなことも無くなると思います。

「Age-Well」の活動を地方展開でも本格化しているようですね。
「Age-Well LOCAL」として秋田、北海道、広島、福岡など各地で大学生を育成し、地域密着の活動を広げています。JR東日本と連携した「Age-Well TRAVEL」では、一人でも楽しく学べる旅行ツアーを企画しています。旅を通じて「デジタルリテラシー」や「社会参加」を自然に促すような仕組みになっているんですよ。
私は「Age-Well」という概念を、“旅する・働く・住まう”すべてに掛け合わせたいと思っています。30代のうちに日本中にAge-Wellを広め、40代・50代で世界に発信したいと思って仕事をしています。日本発の“年齢に前向きな文化”をつくっていきたいんです。

結び:Age-Wellという、新しい生き方のデザイン
創業当初、赤木さんを待っていたのはコロナ禍という試練でした。訪問サービスができない状況で、電話での“傾聴”からスタートしたといい、その経験が今のサービス設計の礎になっていました。
お話を聞くことって、こんなに人を元気にできるんだと気づきました。“傾聴と対話”こそ、エイジズムを解くカギなんです。
赤木さんの話には、ビジネスというより「文化をつくる人」の熱がありました。利益よりも“社会が変わる瞬間”に価値を見出す「社会起業家」の彼女の熱が、多くの人たちを巻き込むことができる原動力となっているようです。
(取材・起稿 増田成衛)
(参考)株式会社AgeWellJapan 所在地 〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1丁目15−12 レイドアウト渋谷503
