シニアの綺麗でいたい、素敵でいたいという気持ち
シニアを綺麗や素敵で元気にしている方がいます。見た目で?という疑問を持たれる人もいるでしょう。
確かに、この一年あたりで話題になったルッキズムという言葉。Looks(見た目、容姿)+ ism(主義)を合わせた言葉で、外見で人を差別する外見至上主義的な考え方と訳される傾向が強いですね。すなわち、ネガティブな言葉として捉えられています。
しかし、見た目を全く気にしないという人はそれほど多くはないのでは?自分なりに綺麗でいたい、素敵でいたいと思うのは性別問わずに当たり前のことではないでしょうか。
綺麗や素敵で高齢者を元気にする高齢者専門のフォトグラファーである山田真由美さん。神奈川県出身の山田さんがフォトグラファーの仕事を始めたのは3年前の50歳のとき。山田さんは色々と寄り道をした結果、写真を撮る仕事を始めたわけではなかったのです。実は、この職業に行き着くまでの道程は見事なつながりをもっていたのでした。
始まりの一歩はパート先のブーム?
「家計の足しにと思い、ファーストフード店でパートとして働き始めました。その時、パート仲間の間でホームヘルパー2級ブーム(*)というのがあったのです。その資格を取っておいた方が、将来的にも仕事に困らないからと勧められ、資格を取りに行ったのが始まりといえば始まりですね」
思い立ったら吉日と、山田さんはすぐさま資格を取得して、特別養護老人ホームで働き出すことに。そして、そのホームの後、自立型と呼ばれるホスピタリティを重要視する介護施設に移りました。
「その施設には、施設に入った後に認知症になり、誰かと目が合うとすぐ喧嘩をするなど、色々なトラブルを起こす利用者さんがいらっしゃいました。ある時たまたま、私がその方にマニキュアを塗って爪を綺麗にして差し上げたのですね。そうしたら、びっくりするくらいに人が変わって、すごく優しくなってしまったのです」
ちょっとしたことで利用者さんに生まれた大きな変化。健常者の場合、周囲の目を気にし過ぎるという傾向があるので、急激な変化には抵抗があるもの。しかし、認知症だった利用者さんは綺麗にしてもらったことに純粋にピュアな反応を示したのでした。そして、そのピュアな反応は山田さんにも影響を与えることに。
「爪にマニキュアを塗っただけのことでしたが、その方の心の中に乱暴な言葉遣いは恥ずかしいという羞恥心のようなものが生まれたのでしょうね。改めて、気づきということの大切さを私自身も再確認したのです。そして、綺麗になることで幸せな気持ちになってもらえるのであれば、介護の仕事にも十分に活かせると思って美容学校に通い始めたのです」
偶然にも、同じ施設の職員の仲間に元エステティシャン、元化粧品会社の美容スタッフが働いていたこともあり、山田さんは施設で美容イベントを実施してみたそうです。
「利用者さんの髪の毛を洗ってドライヤーで整えて、フェイシャルマッサージして、お化粧してマニキュア塗ってあげました。そうしたら、それまでリハビリで歩くことを拒否していた利用者さんが、自分が綺麗になった姿を見てもらいたいとシルバーカーを懸命に押して歩き出したのです」
歩けるようになったところで、何の楽しみもない。だから、別に歩けるようにならなくてもいい。そんな気持ちになっていた方が綺麗になって、みんなに「わぁ~素敵」と言われことで、誰かに見せに行こう、買い物に行ってみよう、という気持ちになったというのです。
介護の仕事では高齢者の意欲を引き出すことも重要
「介護は何かをしてあげるという考え方がベースですが、その方が何をしたいかという意欲を引き出すことも重要だと思いました。そして、意欲が出てきたら、一緒に伴走する。つまり、綺麗になるということは高齢者の方の意欲を引き出すための、一つのツールになると思ったのです」
さらに、綺麗の効果は性別に関係はないと山田さんは続けます。
「これは、男性でも同じことなのです。例えば、男性の方に眉毛をちょっと整えてあげて、そこで若い女性職員が「カッコいい」と言う。すると、その方の背筋がシャンとしますよ。写真撮影の時もそうですけど、髭を剃ってフェイシャルマッサージをして、そのあとネクタイをきちんと締めるだけでも、姿勢が良くなったりするのです。そうして、周りにいるギャラリーが「わぁ~素敵」って言うと、男性もさらに凛とされると(笑)」
ピュアなアンテナと行動が再びシンクロ
直感との出会いにピュアに行動をする山田さん。そして、次なる出会いが遺影用の写真のない利用者の方の存在でした。その方は10年も施設に入っていたものの、写真が1枚もないという事実に山田さんのピュアなアンテナが反応したそうです。
「であれば、私が施設の利用者の方の写真を撮ってあげよう!と思ったのです。そうしたら、そんな矢先に西本貴美子さんという95歳のアマチュア写真家の方にお会いしたのです。写真を撮ろうと考えていたタイミングで写真家に会った。それならば、本格的に写真を習ってみよう!と思ったのです」
その時点では、その後にフォトグラファーを仕事にするなどと思ってもいなかった山田さん。50歳という年齢的にもフォトグラファーなど無理だと思っていたそうです。しかし、友人らの励ましや西本さんのご子息からも勧められて気持ちがグッと動いたとのこと。
喜んでもらいたいし、もっともっと喜んでもらいたい
「皆さんからすごくいい仕事だからやるべきだと言われました。介護も美容も好き。それに、徐々に写真のことも好きになって……。好きなことが仕事になるのであれば、それも素敵かもしれないと思ったのです。それで、施設を退職して2019年からフリーのフォトグラファーとして活動を始めました」
お化粧をしてあげたら、喜んでもらえた。そして、綺麗になったその姿を写真に撮ったら、更に喜んでもらえた。山田さんの中ですごく自然な流れというか、足りないものを足していったら、フォトグラファーに行き着いたのでした。
「フォトグラファーという仕事は機材も重いので体力的には大変ですし、そんなに収入が多いわけではないから楽ではないです。でも、喜んでもらいたいし、もっともっと喜んでもらいたいという思いで心がいっぱいなので、続けていけると思っています」
我流ではあるものの、多くの人が写真を撮れるようになって、多くの高齢者のところに行ってもらいたい。自分の同世代の女性たちにも、50歳からでも新しいことが始められることを伝えたいという思いでフォトグラファー養成講座も行っている山田さん。綺麗と素敵の表現者としての活躍の場はますます広がっていくことでしょう。
*注釈:ホームヘルパー2級の正式名称は訪問介護員2級養成研修過程。介護スキルを証明する資格で利用者の自宅に訪問して生活をサポートする人のことです。介護に関しては資格が多数存在して、受験資格も複雑であったため、2013年4月に資格制度が変更となりました。それに伴って、名称も介護職員初任者研修に変更され、ホームヘルパー2級という資格は廃止されました。
2023年8月掲載記事
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