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シニア就労の活路は、『地域で活躍できる場』の創出にあり

■2021年4月に70才までの雇用が努力義務化されていますが、それでシニアの雇用は促進されるのでしょうか。

現状の定年設置状況を見ると、定年がない、あるいは65歳以上定年は全体の7%程度(企業割合)です。残り93%の企業で働く従業員は65才までは働けますが、それ以上は約束されません。国は70才までの就業確保(努力義務)と言っていますが、その措置を適用した企業でも、70才までの就業を希望した人全員に適用されるわけではありません。ざっくりと言うと、現役からの延長線上で70才まで働けるのは1割程度の人ではないかと見ています。したがって、少なくとも残りの9割の方々は65才の時点でセカンドキャリアを探さなくてはならないのです。

国は今、65才まで“生計就労”をするというパターンから70才まで“生計就労”するというパターンに変えようとしています。70才までの就労と言っても実際の70才はまだまだ若いし、人生100年時代です。そこで理想のモデルは、65才まで“生計就労”をおこない、65才以降85才くらいまで“生きがい就労”をするというパターンではないかと考えています。年金が出るようになる65才から85才までは、生きがいや健康を重視して活躍するという形です。

出展:前田展弘氏提供資料

■65才からは、 “生計就労”から“生きがい就労”へと変わるのですね。

“生きがい就労”を誰が提供するかというと、企業ももちろんなのですが、地域が中心だと考えています。シニアは遠くに行かず自宅のある近場で週2~3日とか1~2時間働く、こういう形で地域がシニアの活躍の受け皿となることを期待しています。政策としては2016年から厚生労働省のおこなっている「生涯現役促進地域連携事業」というものがあります。私が取組んできた柏市のモデルを参考に策定されました。地域には、学校、子育て、医療介護、地域創生などマンパワーが必要な現場がたくさんあります。地方自治体が中心になって、そういった現場でシニアの力を活かしていくという考え方です。自治体そのものや、先ほどあげた学校、子育て、介護医療など半公共的な分野で、シニアの仕事の選択肢を広げていく、それが理想だと考えています。

政策として、前述の「70才までの就業確保の努力義務」、地域の面では「生涯現役促進地域連携事業」という形でシニアの雇用を推進に向けていろいろやってはいますが、中身の面でまだいろいろと課題は残されています。

■シニア向けの求人は介護や子育て支援が多く、シニア側からはこれまで蓄積してきたスキルが生かせないという声もありますが。

企業側ばかりでなく、シニア側の歩み寄りも必要だと思います。特定の仕事に対して“食わず嫌い”という状況も見られます。イメージが先行して初めから敬遠してしまうのですね。例えば、駐輪場の管理や軽作業などでも、実際やってみると意外と楽しいと思える要素はあったります。また、仕事とシニアをマッチングさせる活動のエンジンとなるような組織及びコーディネーターが極めて少ないことは問題です。

シニアの求職支援を行っている組織等として、ハローワーク、シルバー人材センター、民間の人材会社、「生涯現役促進地域連携事業」が挙げられます。ハローワークは主にⅢ層、民間の人材会社は主にⅠ層を対象としています。Ⅱ層に対してはシルバー人材センターが期待されますが、実際は加入者が少ないのです。例えば、比較的若い65~74才のシニアでは4%程度が加入しているに過ぎません。

また、先ほどの「生涯現役促進地域連携事業」は、実施したいと手を挙げた自治体(都道府県/市区町村単位で可能)が、厚労省に申請をして認められた場合に実施できます。しかし、手を挙げるところが少なく、都道府県は半分程度が実施してきたのに対し、市区町村だと僅か3%程度です。こうした結果、Ⅱ層の多くは自分のコネなどを駆使して自分で何とか仕事を探すしかない現状が続いています。Ⅱ層に対する社会的な支援が少ないのです。

■あらためて、シニアが就労することのメリットを教えてください。

一番は健康と生きがいに繋がることです。年齢に関わらず社会と関わり続けていくことはフレイルや認知症の予防になります。自分のペースで無理することなく働き、自宅以外に自分の居場所を持てることは大切です。もちろん、金銭面でのメリットもあります。あと、仕事を通じて地域のコミュニティに属することは、将来的に独りになったときの社会的孤立の予防にもつながると考えます。

■前田さんの今後のシニアの就労支援に向けた活動についてお聞かせください。

私は「生涯現役社会の実現」をライフワークとして取り組んできています。今後については主に次の2つの活動を進めていきます。一つは、前述してきた「65歳からの地域での生きがい就労」の社会実装に向けて、研究の継続と政策提言を行っていきます。これは東京大学高齢社会総合研究機構の高齢者地域就労研究会の活動の一環です。

もう一つは、生涯現役社会の概念を拡張させた「生涯貢献社会」の実現に向けた研究活動です。年齢に関わらず働くことの必要性と重要性のことは変わりませんが、働くことが全てでもありません。年齢や体力の問題等からいつかはリタイアするときを迎えます。そうした方が社会に貢献していないかと言えば決してそのようなこともありません。人や社会に貢献している、感謝されるということは、その人の生きがいにつながることです。長生きの価値にもつながると考えています。こうした概念を拡げる活動も行っていきます。

                                        取材/谷口明美