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がんになっても人生100年。がん患者の就労支援を11年。「新しいあなたのこと考えて。そこに答えがあるから」

がんになっても人生100年。がん患者の就労支援を11年。「新しいあなたのこと考えて。そこに答えがあるから」ー(1)

手術の後遺症のリンパ浮腫のせいで、仕事が遅れた。上司の「工程が立たないと‥」の一言に、設計会社を辞職。収入が治療代に消えるバイト生活のなか「仕事を続けるべきだった」と後悔した。この経験からがん患者の就労・雇用支援のCSRプロジェクト」を開始し、キャンサーソリューションズ(株)を創設。厚労省のがん対策推進協議会に参加し、患者の思いを訴え、がん対策推進基本法や傷病手当金の改定などに反映させてきた。

桜井なおみさん キャンサーソリューションズ株式会社
1967年生まれ。2004年に乳がんを罹患し、2年後会社を離職。2007 年に東京大学医療政策人材養成講座で「がん患者の就労・雇用支援に関する提言」を発表、がんにかかった人の3分の1が仕事を辞めるという衝撃的な実態を社会に突きつけた。この研究で最優秀賞とDREAM 賞を受賞。2009年、現会社を創設し代表取締役に。厚生労働省がん対策推進協議会委員として、がん啓発活動とがん患者の就労支援に取り組む。


がん患者への就労支援とは?

うれしい実例をお話ししますね。

40代の男性が抗がん剤の副作用で歩けない、座っての仕事を探したいと、来られました。顔色も蒼白、髪の毛も真っ白でやつれておられる。お話しを聞いていると、ご家庭があり小さなお子さんもいる。
「働きたいという気持ちに戻った時が復職のタイミング、新しい自分を考えてみて」
と、これまでのキャリアと今の課題と、遠いかもしれないけれどご自分の未来の夢をすりあわせて考えて、とお願いしました。答えは自分のなかにあるし、それに気づくのががん患者の自立だと思っていますから。

すると、響くところがあったとみえ、失業手当が出ている間に家で勉強して簿記などの資格をとり、自分の“売り”を戦略的にプレゼンする就職活動をされて、見事に就職。働きだしました。するとどうでしょう。
信じられないでしょうが、あの真っ白な髪がみるみる間に元の黒さになったのです。肌色も健康的な色になってまるで別人で、驚くほど元気になられました。それほど、人には社会的活動が必要なのですね。

この男性のように、人から期待されている、役割がある、尊重される、なにげない会話ができる、なにかで喜んでもらえる。そういう社会的役割を持つことが、いったんは落ち込んだ心身を立ち直らせるのだと納得しました。

仕事だけではありません、主婦として家族を支える自分、ボランティア活動、趣味に生きる、社会的役割は人それぞれです。がんとともに生きるのに、仕事はそのうちのひとつ。新しい生き方に正解などありません。

人生100年時代、がん=死は過去のことになりました。二人にひとりはかかるごく身近な病気なのに、死亡率もまだ高いし、治療が長引いたり、副作用も辛い場合がある病気です。
がんに罹患したとき、ご自分のなかで悩み、戸惑い、「新しい生き方」が始まります。しかし患者さんはショックで、傷つきやすくなってもいるので、上司のひとことで辞めてしまう場合も多いのです。その危機を相談業務で支え「新しい生き方」を見つけるお手伝いをするのが、私たちの役目です。

患者との相談では、私自身の悔しい想い、「もっと考え、調べ、そして相談すればよかった」という反省がこもってしまいますねえ。旅立っていったがん友の「想い」も伝えたい。

キャンサーソリュージョンズは、どういう会社なのですか?

がん経験を活かして仕事し、問題解決を行うために立ち上げた社会貢献型の株式会社です。プランニング(学会やフォーラムの企画運営)、コンサルティング(復職支援、雇用継続プログラム、社員教育)、リクルーティング(就業のスキルアップセミナー、企業のニーズと患者のスキルをマッチングさせる事業)の3つのコアプロジェクトで仕事をしています。11人の社員はみな体験者で、がんの最新情報を患者目線でわかりやすく伝える提案やピアサポート(同じ悩み、あるいは病を体験した人たちが同じ仲間としておこなう支え合い)を展開しています。

がん患者は初期治療の治癒の場合を除いて、どなたもが転移、再発の可能性をかかえています。転移や再発をしたらまた治療費が発生するので、仕事を続けることが必須なのです。いまは抗がん剤治療でも、通院で、何時間かですみます。職場の理解と協力があれば、仕事と治療を両立できる時代です。両立の理解を社会に求める情報発信も行っています。

がん患者支援の「ABCプロジェクト」がありますが、どんな活動ですか?

「ABCプロジェクト」は、乳がんがほかの臓器に転移したり、再発したりした「転移性乳がん」患者の情報共有の場です。「オンライン交流会」や勉強会、ミニセミナーで情報を届けています。

たとえば米国乳がん学会(SABCS)の発表をトリプルネガティブ(マイナス要素が重なる)、ルミナル(ホルモンの型)、HER2(ハーセプチンに対する遺伝子型)のタイプごとに、学ぼうというセミナーがあります。いかに乳がん治療が、個別化、先進化しているか。患者たちはこのような医療状況のなかで自分のがんのタイプを知り、医師と相談して、治療の選択をしていくのか、わかりやすく伝えたりしています。

また、患者の体験を書き込む「ABCエピソードバンク」を開催し、患者たちの情報の蓄積に AIを活用。知りたい情報、人に簡単にアクセスできるよう研究を進めています。(奈良先端科学技術大学院大学荒牧英治先生と協働)