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役所を定年退職、ギャラリーの館主へ。自由に好きな仕事ができる自分の居場所です

役所を定年退職、ギャラリーの館主へ。自由に好きな仕事ができる自分の居場所です(1)

田島和夫さんは、公務員の定年後5年の「再任用」(退職してから別の処遇で働く)をお断りしました。
57歳で、若いときの夢を実現するべくギャラリーを建設する計画を立て、1年は土地探し、2年目は設計、3年目が建設。
定年退職と同時に祖父が開いていた骨董店の屋号から「ギャラリー古藤(ふるとう)」と名付け、開店したのです。
田島さんに江古田の街の地域ギャラリーとしての発信について、お聞きしました。


田島和夫さん
株式会社古藤 代表取締役社長

1950年名古屋市に生まれる。早稲田大学卒業後、役所に就職。定年退職後、古美術&ギャラリー古藤を営む。71歳


だれでも気楽に立ち寄り息抜きができる、そんな場、
ギャラリー古藤を建てるという決心はどのように?

行政にかかわっていた時代、住民のための施策ができにくいという、私にとってもどかしい時代があって、その上に母と姉の病気が重なり、ストレスで体調に危機感を抱いたのです。

このころから周りの元気のない方とかが気になりだして、そんななかで定年後を考えるとどうしようかと。それに再任用した先輩は、なんか以前に比べ覇気がないようにも見えて。これからは好きなことで働くのが一番だな、と思い始めたのです。

幸いぼくは役所、パートナーは美術出版の編集者として共に働いてきて年金がある。だからなんとか生きていける。娘も育っている。彼女とは割と同じ価値観で生きてきたし、信頼もある。
憧れていた小さな文化スペースを作ろうと言うと、反対もされず二人で動きだしたのです。

骨董とギャラリーはどう結びついたのですか

祖父は、初期の名古屋美術倶楽部の会員でした。祖父が大切にしていた備前の壺を鑑定してもらったら、桃山時代の名品だった。これを機会に古美術の勉強会に通い出しました。
だが店を開きたいというと、「素人には無理、無理」「真贋を見分けるには相当な目がいる」と言われ続けました。しかしやってみたかったのです。

建設には相当な資金がいったでしょう

西武池袋線の江古田は、武蔵大学、日本大学芸術学部、武蔵野音楽大学と大学が3つもある街。できれば大学の前の土地にしたかったのですが、高くて無理だとあきらめていたのです。

ところが建築家の冨田秀雄さんに依頼したところ、創るなら、いいものにしないと結局失敗すると言われました。夢はどんどん膨らみ、退職金や貯金をすべて注ぎ込みマンションを売り払い、足りなくて銀行に借金して3年がかりで出来たのです。

約40坪の敷地にできたギャラリーには、150インチのスクリーン、大型プロジェクター、9つのスピーカーを嵌め込んで夢の実現です。娘は何も言わず、資本金と言って6万円くれました(笑)

市民主催の映画祭はどうやってできたのですか?

退職直前の2011年3月11日、役所の10階はグラグラ揺れました。福島の原発事故の不安のなかに7月、ギャラリーが開店。そのころ知人から預かった DVD『ひろしま』(1953年、関川秀雄監督、第5回ベルリン映画祭長編映画賞受賞、被爆経験のある広島市民が参加して原爆の阿鼻叫喚を描く。岡田英二、山田五十鈴、月丘夢路などが出演)に時期が時期だけに大きなショックを受けました。

この映画上映権は高額でしたが、ここで15日間の上映会をすることを決断しました。最初の日は観客ゼロ。これは大変とビラをつくり、二人であちこちの集会でチラシとビラを配りました。
この上映会が通りかかった武蔵大学の戸田桂太名誉教授と永田浩三教授の目に留まり、引き合わせてくれたのです。以後、永田教授が代表として市民が自主的に映画を選び上映する「江古田映画祭〜3.11福島を忘れない」が10回続いています。

しかし、上映権料、チラシ制作、会場費、ゲストを招く交通費などで費用がかかり、収支はぎりぎりの状況です。「江古田映画祭はどんな役割でも、たった一回の手伝いでも変わらず温かく迎えられます。仲間との信頼感が漂う気持ちよい会場です。監督と観客のトークがどこにもない特色です」と言ってくださる委員たち。私たちがずっと求めていた、いい仲間ができました。

経営は順調なのですか?

この10年、銀行に建物が没収されないようにと、試行錯誤で必死でしたね。ギャラリーのレンタル料も、都心のように高くはいただけないですから。ギャラリーを借りてくださる方には、宣伝や集客のお手伝いもします。
私は一応、骨董屋の店主兼経営者。彼女がこまめに動いてくれます。なにか問題があれば電話やメールで相手に連絡を取り、人間関係を大切にしています。展示が成功して、喜んでいただきたい。

そうやって人の輪が次第に広がり、2020年からは、江古田の芸術祭「江古田ユニバース」を引き継ぎ、「江古田のまちの芸術祭」と改名して19の店舗で絵画展、音楽の集いを開催しました。
今年は2回目、それが33店舗にひろがりました。江古田には前述の武蔵大学、日大芸術学部、武蔵野音楽大学と3つの大学があり、同潤会分譲住宅・国登録有形文化財の「佐々木邸」、「ギャラリー水・土・木」、「やきほギャラリー」、「劇団一の会」などもあり、おいしい食べ物屋さんもある文化的な街です。

広報も「エコレポ」やwebサイト「練馬桜台情報局」があります。その方々とも、いつも協力しあっています。
「江古田のまちの芸術祭」は、チラシやポスターを刷って、町中に配って、集客をはかっています(2021年10月30~11月7日)。広告も私たち二人やほかのお店の皆さんといっしょに動いています。

芸術祭には、3大学と西武鉄道が実施する江古田キャンバスプロジェクトといって、町全体をキャンバスに音楽やアート、カルチャーなどであふれさせるイベントもあります。ほかに、桂文治さんの文治寄席、同潤会江古田分譲住宅佐々木邸の公開、うちのギャラリーでの展示、映画などと目白押しです。

芸術祭以外にも、絵や書の展覧会をはじめ落語の桂文治一門会や浪曲を聞く会を開いたりもしています。
笑いがあふれて、楽しいですよ。

ギャラリーFURUTO