人生100年時代は多毛作人生

今回は、ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)の研究に長年携わっていらっしゃる秋山弘子教授が登場。シニア、プレシニアが、人生100年時代をどのように生きていけばいいかをテーマにお話をおうかがいしました。それ以外にも、シニアに関わらず今後の働き方全般について、また、秋山先生ご自身のセカンドライフについてなど、幅広い内容のお話が聞けています。

〈秋山弘子教授プロフィール〉
東京大学未来ビジョン研究センター客員教授/東京大学高齢社会総合研究機構客員教授/東京大学名誉教授
イリノイ大学Ph.D、米国の国立老化研究機構フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、東京大学大学院教授(社会心理学)、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授、日本学術会議副会長などを歴任後に2020年から現職。高齢者の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を30年にわたり全国高齢者調査で追跡研究。近年は長寿社会のまちづくりや産官学民協働のリビングラボに取り組む。人生100年時代にふさわしい生き方と社会のあり方を追求。

従来のライフプランと人生100年時代のライフプランの違いについて教えてください。

日本は長い間、人生50年、60年の時代が続いていました。今はご質問のとおり、人生100年の時代になってきています。当然、人生50年時代の生き方と人生100年時代の生き方は異なります。それはシニアに限ったことではなく、若い人たちのライフプランも変わってきています。

人生50年、60年の時代では、定年後は余生でした。定年後は健康状態も良くないし、余生は長くなかったのです。余生は盆栽でもして、のんびり過ごすのが理想でした。

今は、長く生きる、しかも元気で長く生きる時代になってきています。これは世界的な傾向です。1970年代から比較すると、老化の簡便な指標である、歩行スピードや握力が改善しています。昔は60代を年寄りだと思っていましたが、今では誰も60代を年寄りとは思っていません。元気で長く生きるようになってきていることは、人々の意識の面からも科学的データからも裏付けられています。

それと、日本経済のサスティナビリティという問題があります。社会保障という視点での話です。少子高齢化で、生産年齢人口が急激に減少し、支える側と支えられる側のバランスが変わってきています。1970年では9.8人の現役が1人のシニアを支えていたのですが、2021年は2.1人の現役が1人のシニアを支えています。将来的には1人の現役が1人のシニアを支えることになります。

そうなると、シニアは元気なのですから、働いた方がいいのです。しかも、これは日本の宝だと思うのですが、支える側でいたい、現役でいたいと望むシニアが多いのです。しかし、現状はたくさんのバリアがあって急速にはシニアが働く社会には進んでいきません。それでも、日本は、世界の中で、働くシニアの比率が高いのです。今後は、確実に働くシニアの比率は増えていきます。今はその移行期で、無理のない範囲で、生きがいを感じて働く条件を整えていくのが、私たちの役割だと考えています。

ー人生100年時代は、シニアも働く時代になっていくということですね。でも、現状を見ていると、うまくセカンドキャリアへとシフトして幸せそうに働いているシニアは少ない気がしますが・・・

シニアが幸せに働けるようになるまでは、まだ道のりは遠いというところでしょうか。ハードルが多いのです。

今、企業には継続雇用という制度があって、ソフトランディングさせようとしていますが、その働き方はシニア本人にとっても、それを見ている周りにとっても、魅力的なものではありません。シニアの知識・経験やネットワークを活用していないケースが多いからです。

また、シニアはマラソンの後半戦と同じでバラつきが大きいということもあります。体力、自由になる時間、経済的な状況、今までのスキル・経験などが様々です。個々人に合った働く場を作るのは難しく、シニアは不完全燃焼な働き方になってしまいます。

今後どうしていけばいいのか道筋は見えているのですが。年金制度にしても、シニアが働くと損するような制度は改革するべきです。働く場も、若い人を念頭に置いていて、シニアにとってはバリアが大きいのです。また、長く働こうとすると、絶えず学んで自分を磨いていく、リスキリング(職業能力の再開発・再教育)できる制度が必要です。

ー働きたいシニアにとって、ネックになっているのはどのようなことでしょうか。

多様な事情を抱えるシニアたちが、適材適所で無理のない範囲で働くためには、人と仕事とのマッチングがネックになります。大学新卒の人のマッチングとは異なり、個々で、体力や経験、能力、働きたい時間などバラバラな人のマッチングはとても難しいのです。

また、バラバラな事情を抱えた人をマネジメントすることもボトルネックになっています。例えば、突然体調が悪くなって仕事に行けなくなったという時に、すぐに別の人を手配できるかということです。

今、5つの自治体でアプリを導入して実証実験をおこなっています。働き手のデータベースと仕事のデータベースを作って、アプリでマッチングさせる実験です。将来は最終的なところは人が判断するにしても、大雑把なところはAIで人を介さないでできないかと考えています。テクノロジーの開発で解決できると思いますが、まだ、道のりは長いといったところです。

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