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子供の中にこの体験が残ってくれれば。1枚の紙が立体に変身するペーパークラフトの愉快な深淵

子供の中にこの体験が残ってくれれば。1枚の紙が立体に変身するペーパークラフトの愉快な深淵ー(1)

ペーパークラフト作家の吉原順一さん(日本図書設計家協会会員。著書に『パペラ 1枚の紙から作って遊べる動物たち』大日本絵画など)は、首都圏を中心にワークショップや教室、作品展などで活動しています。夏の日差しを感じるある日の午後、教室を開く施設に伺いお話をお聞きしました。


PA-PE-Ra®(パペラ)という1枚の紙が立体に変身する、オリジナルのペーパークラフト教室です。
今日の対象は小学生。始まる前は黒板で算数の計算をしたり、名前を書いたり、チョークを落としたり、その掃除をしたりと大騒ぎでしたが、意外にも始まると皆さんきちんと席に着き吉原さんの話を聞きます。
何人かの子供が教室を覗いては、1人2人と増え、10ほどの席はいっぱいになりました。

PA-PE-Ra®について、吉原さんのパンフレットから写させていただくと、
「PA-PE-Ra®は紙に何本かの線を引き、切って曲げて折って差し込んで仕上げる、一枚使いきりの紙工作です。いろいろな形の動物が現れてきます。その驚き、楽しさを味わってもらいたいと思います」
続けて「紙一枚を使い切り、裁ち落としがないので、完成後に紙くずがでません。
差し込んでとめるだけで、のりなどの接着剤は使用しません。子どもから大人まで誰でもが組み立てられるように、差し込みの回数を、できる限り少なくしました」とあります。なるほど、です。

今日作るのは2点。パンダと猫です。しかも、なんとお絵描き歌付きです。歌の通りに描いていくと組み立て用カードが出来上がる。歌詞も曲も吉原さんが作りました。施設のスタッフの方の電子ピアノ演奏を伴奏に、吉原さんはウクレレを弾いて歌います。子どもたちの進み具合も作品も様々です。こちらも見ていて、それが楽しい。

パンダや猫の絵にそれぞれ自分で思う顔や模様・色をつけます。できると、はさみを入れクルッと丸め同じ色マーク同士を差し込み組み立てていく。そうすると、平面が立体になります。
1時間半、ずっとしている子、途中参加の子、途中退席の子、いろいろです。「今日は4時までだ」とか、子供も忙しい。

吉原さんにお聞きします。いつからこのようなことを始められたのですか

音楽関係の出版社で雑誌やブックデザインを担当していましたが、30年勤めて退社、独立しました。レギュラーの仕事があったことで、まあなんとかなると。でも、それはバブル崩壊後だったので、まあ無謀といえば無謀ですかね。フリーで仕事をこなしていくうちに、どうしても自分だけの創作表現をしたいと思うようになりました。もともと絵を描くことが好きで、デザイン+絵での自己表現を模索しました。そして辿り着いて、見つけ出したのが、ペーパークラフトだったのです。

紙を選んだのは?

もともと紙をいじるのが好きだったのです。紙は、簡単に手に入る素材ですし、切ったり曲げたりの加工も簡単ですから。それまで、年賀状をシルクスクリーンで刷って出していました。30年くらい前でしょうか、何かできないかと紙をいじっていたら、1枚の紙が立体になった。ああ、これいいかも。いけるね、ですね。

そこで、年賀状もこれに変えました。ただ、これまでのペーパークラフトはパーツを作って組み立てる手法で、それと同じようにはしたくなかった。オリジナルを作りたいなあと。1枚の紙を使い切って、それを立体にしたらどうだろうと考えたのです。1枚の紙でといえば、折り紙がありますが、それとも違うオリジナル作品を目指しました。ずっと1枚です。足したり切り捨てたりしません。
PA-PE-Ra®の始まりです。PA-PE-Ra®ロゴはPaperとa=1枚を組み合わせたものです。最初にまず、フクロウを作りました。不苦労からだろうですって、いえいえ。フクロウの会というフクロウ好きの人々が集まる会があったのです。学者の方の主催でした。集まってフクロウの話をするのです。
そこに何か持っていきたいなと思い、フクロウの組み立て作品をお見せしました。みなさんフクロウがお好きなだけに、とても好評でした。それからペンギン、ライオンと動物を次々作りました。2次元から3次元の作品が生まれる始まりです。

ただ、しばらくして不安になりました。このまま次回作も作り続けられるだろうか、と。しかし、それも取り越し苦労でした。今まで20年以上続いています。むしろ、イメージに実作が追いつかないほどです。自分の中でグラフィック+オリジナル=自分だけのクラフト・ワークにたどり着きました。

動物からほかにもいろいろ広がっているのですよね

そうです。金魚や蝶々、ハロウィンやひな人形。それに全長11ⅿ60cmもの特大恐竜。子供たちと恐竜を塗っていくのだけれど、まあいたずら書きになってしまいましたが、それもいい。

絵本『はらぺこあおむしとなかまたち』も作品化しました。5年前です。13種類26個のエリック・カール絵の動物を組み立てるカード付きで出させていただきました。

*『パぺラ 1枚の紙で作る はらぺこあおむしとなかまたち』作 吉原順一 絵 エリック・カール 偕成社刊 パペラ 1枚の紙でつくる はらぺこあおむしとなかまたち | 偕成社 | 児童書出版社 (kaiseisha.co.jp)

作り方は最初に平面を作ってそれを立体にするのですか

いいえ、逆です。まず、仕上がりをイメージします。顔だったりポーズです。決まれば、紙を切り込み組み立ててみます。右に左に、前に後ろに曲げながら見つけていきます。ひねったり、ひっくりかえしたりもします。できあがったら、元の1枚に平面に戻します。

どこを切るのか、どことどこに差し込む線を入れるのか、その順番を色で表します。実は、ロゴPA-PE-Ra®のPが青、次のPが赤、最後のRが黄色になっていますが、この色の通りに差し込むとできあがるようになっています。すべて誰でもできるよう簡単にです。
紙1枚だけでこれだけのことができる、という私のメッセージです。私の作品は単に参考例。「自分で考えたよ」と言ってくる子が時々来る。自分のイメージで作ってしまう、すごいことです。そんなきっかけになれればいい。

これまで千人以上と一緒に作ってきました。おもに、子供、母親、高齢者の方々ですね。高齢者のボケ防止にもなるのではないでしょうか。手を使いますし。子供にはハサミを使うことが大切です。もちろん左手用のハサミも用意しています。

ここでは月に1回させていただいています。かつて通っていた子が中学生になっても気になって顔を出してくれます。うれしいですね。

子供にも、頼る子、がんばる子、呑み込みの早い子、自分流に組み立てるオリジナリティ豊かな子などいろいろな子がいます。子供の表情を見ているだけで楽しいですよ。